コラム

なぜイスラエルは攻撃を拡大させるのか?...「いつか予想された戦い」と、1年で深めた「独自思考」

2024年10月22日(火)17時25分
戦死したイスラエル兵の葬儀参列者

戦死したイスラエル兵の葬儀参列者(10月6日) SHIR TOREMーREUTERS

<攻撃拡大はガザからレバノンへ。戦線拡大を止めようとする国際社会の声が届かない背景にあるイスラエル独自の思想について>

9月27日、イスラエルは親イランのイスラム教シーア派組織ヒズボラの最高指導者ナスララ師を殺害。その後、ヒズボラとの間でミサイルや空爆の応酬が激化し、ヒズボラが拠点を置くレバノンへの地上侵攻へと拡大している。

なぜこのタイミングで、イスラム組織ハマスに対するパレスチナ自治区ガザへの攻撃からレバノンへと戦火が移ったのか。


実はイスラエルとヒズボラの衝突は「いずれは予想された戦い」だった。アラビア語で「神の党」を意味するヒズボラは1980年代、イスラエルのレバノン南部占領に抵抗する形で生まれた。

10万人の戦闘員を擁すると称し、「世界最強の非国家組織」と呼ばれる軍事力で、2006年の第2次レバノン戦争では、イスラエルに大きな被害を与えた。

それ故、イスラエルは将来の衝突に備えて万全の態勢を整えてきた。その準備が結実した作戦の1つが9月中旬のポケットベル攻撃だった。通信機器に小型爆弾を仕込んで標的を暗殺するのはイスラエル情報機関の常套手段である。

その世界トップレベルとされるイスラエルの情報機関が昨年10月7日のハマスの攻撃を防げず、はるかに強大なヒズボラに対しては組織の奥深くに工作活動を仕掛けて、極めて洗練された攻撃を成功させたことは皮肉でもある。

一方、ヒズボラは今回、イスラエルとの全面衝突には前向きではないとみられている。

プロフィール

曽我太一

ジャーナリスト。東京外国語大学大学院修了後、NHK入局。札幌放送局などを経て、報道局国際部で移民・難民政策、欧州情勢などを担当し、2020年からエルサレム支局長として和平問題やテック業界を取材。ロシア・ウクライナ戦争では現地入りした。2023年末よりフリーランスに。エルサレム在住。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日経平均2カ月ぶり4万円、日米ハト派織り込みが押し

ワールド

EU、防衛費の共同調達が優先課題=次期議長国ポーラ

ワールド

豪11月失業率は3.9%、予想外の低下で8カ月ぶり

ワールド

北朝鮮メディア、韓国大統領に「国民の怒り高まる」 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:韓国 戒厳令の夜
特集:韓国 戒厳令の夜
2024年12月17日号(12/10発売)

世界を驚かせた「暮令朝改」クーデター。尹錫悦大統領は何を間違えたのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 2
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達した江戸の吉原・京の島原と並ぶ歓楽街はどこにあった?
  • 3
    男性ホルモンにいいのはやはり脂の乗った肉?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 5
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 6
    ノーベル文学賞受賞ハン・ガン「死者が生きている人を…
  • 7
    韓国大統領の暴走を止めたのは、「エリート」たちの…
  • 8
    「男性ホルモンが高いと性欲が強い」説は誤り? 最新…
  • 9
    「糖尿病の人はアルツハイマー病になりやすい」は嘘…
  • 10
    統合失調症の姉と、姉を自宅に閉じ込めた両親の20年…
  • 1
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 2
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、妻の「思いがけない反応」...一体何があったのか
  • 4
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 5
    国防に尽くした先に...「54歳で定年、退職後も正規社…
  • 6
    朝晩にロシア国歌を斉唱、残りの時間は「拷問」だっ…
  • 7
    「男性ホルモンが高いと性欲が強い」説は誤り? 最新…
  • 8
    男性ホルモンにいいのはやはり脂の乗った肉?...和田…
  • 9
    人が滞在するのは3時間が限界...危険すぎる「放射能…
  • 10
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 9
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story