コラム

「ハマス殲滅」は、なぜ「空想」なのか?...国際社会が放置してきた「大きなツケ」

2024年07月09日(火)11時13分

しかし、ハマス自らが統治を断念することは現実的ではない。ガザ地区にはもともと、行政の中枢機能を担う象徴的な場所や政府があったわけではなく、ハマス系の公務員が各種の行政手続きを担っていたにすぎない。

イスラエルが殺害を宣言するハマスのガザ地区指導者ヤヒヤ・シンワルは、イデオロギー的なリーダーであっても、行政府の指導者とは違う。「ここが占拠されたらハマス陥落」というような場所もなく、何をもってハマスのガザ統治が終結したと判断するのかのシナリオは描けていない。


何よりハマス統治が終わったとして、230万人が暮らしていた地区を誰が統治するのか。パレスチナ自治政府が最有力候補だが、ネタニヤフ首相および極右政治家たちは自治政府によるガザ統治を認めるつもりはない。

また、パレスチナ自治政府はヨルダン川西岸地区でも機能不全に陥っている。人心を掌握できないなかで、ガザ地区の統治に乗り出すことが本当に可能なのか、外交関係者は頭を抱える。今まさに国際社会が自治政府の立て直しに躍起になっているところだ。

ガザでの戦闘が終わったとしても、それは次なる混沌の始まりとなる。17年にわたるハマスの実効支配や封鎖をそのままにしてきた国際社会は、いま改めて大きな課題を突き付けられている。

プロフィール

曽我太一

ジャーナリスト。東京外国語大学大学院修了後、NHK入局。札幌放送局などを経て、報道局国際部で移民・難民政策、欧州情勢などを担当し、2020年からエルサレム支局長として和平問題やテック業界を取材。ロシア・ウクライナ戦争では現地入りした。2023年末よりフリーランスに。エルサレム在住。

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