コラム

戦略性を失った習近平「四面楚歌」外交の末路

2020年07月17日(金)18時00分

「1国2制度による台湾統一」を台無しに

そして原稿の冒頭で記したように、今年の夏に入ってから、無闇に敵をつくるばかりの習近平外交が「佳境」に入っているようである。アメリカという強敵の全面攻撃を前にして、本来ならできるだけ仲間を増やして対処していくべきところ、習政権はその正反対のことをやっている。主敵のアメリカと戦いながら、カナダにもオーストラリアにも日本にもけんかを売っていくのはもはや狂気の沙汰で、「統一戦線」の面影もなければ戦略性のかけらもない。アメリカと対峙している最中、アジアの大国であるインドと準軍事的衝突を起こすとは、理解不可能な行動である。

もちろん習近平政権は「統一戦線」の伝統を完全に忘れたではない。6月22日、習は欧州連合(EU)のミシェル大統領及びフォンデアライエン欧州委員長とのテレビ会談に臨み、中国と欧州が「世界の安定と平和を維持する二大勢力となるべきであり、世界の発展と繁栄を牽引する二大市場となるべきであり、多国間主義を堅持し世界の安定化を図るための二大文明であるべきだ」と述べ、欧州と連携して第3勢力(すなわちアメリカ)と対抗していく姿勢を示した。

言ってみれば、習近平の「連欧抗米」戦略らしきものであるが、しかしそれからわずか1週間後、習政権がとった政治的行動が、欧州との連携を事実上不可能にした。香港国家安全維持法の強行で、中国はイギリスだけでなく、欧州の主な先進国との関係が亀裂を生じたのだ。実際、EU外相にあたるボレル外交安全保障上級代表は7月13日、香港国家安全維持法に対してEUが対抗措置を準備していることを明らかにした。せっかく「連欧抗米」戦略を考案しながら、自らの行動でそれを直ちにつぶす――まさに習近平外交の不可思議なところである。

台湾政策もそうだ。2019年1月、「1国2制度による台湾統一」を自らの台湾政策の一枚看板として打ち出したのは習近平であるが、それから現在に至るまで、習政権は香港問題でとった行動の1つ1つが、まさに「1国2制度」の欺瞞性を自ら暴き、「1国2制度は嘘ですよ」と自白したかのようなものである。挙げ句の果てに、香港国家安全維持法の制定で自ら1国2制度を完全に壊し、「1国2制度による台湾統一」という構想を台無しにしてしまった。自分の打ち出す政策を自分の蛮行によって打ち壊すとは、習近平外交はもはや支離滅裂の境地に達している。

このような戦略なき「気まぐれ外交」を進めていくと、中国の国際的孤立はますます進み、中国にとっての外部環境の悪化がますます深刻化していくのがオチではなかろうか。

20200721issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年7月21日号(7月14日発売)は「台湾の力量」特集。コロナ対策で世界を驚かせ、中国の圧力に孤軍奮闘。外交・ITで存在感を増す台湾の実力と展望は? PLUS デジタル担当大臣オードリー・タンの真価。

プロフィール

石平

(せき・へい)
評論家。1962年、中国・四川省生まれ。北京大学哲学科卒。88年に留学のため来日後、天安門事件が発生。神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。07年末に日本国籍取得。『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(PHP新書)で第23回山本七平賞受賞。主に中国政治・経済や日本外交について論じている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

貿易分断で世界成長抑制とインフレ高進の恐れ=シュナ

ビジネス

テスラの中国生産車、3月販売は前年比11.5%減 

ビジネス

訂正(発表者側の申し出)-ユニクロ、3月国内既存店

ワールド

ロシア、石油輸出施設の操業制限 ウクライナの攻撃で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story