米中貿易「第1段階合意」が中国の完敗である理由
実は、この第1段階の合意に至るプロセスや合意にかんする中国側の発表の仕方などから見ても、合意の内容は中国にとって屈辱的な不本意なものであることが分かる。
まず、実に奇妙なことであるが、今年の10月までにずっと中国側を代表してアメリカとの貿易協議に当たってきた劉鶴副首相が、第1段階の合意が近づいてきている11月から突如、協議の場から姿を完全に消した。12月13日の合意達成までの数週間、劉の動静はいっさい伝えられていないし、13日の中国政府による合意発表の場にも現れていない。言ってみればこの合意は、中国側のトップの交渉責任者が不在のままの合意である。全く奇妙だ。
その理由は考えみれば実に簡単だ。第1段階の合意は中国にとって屈辱の不平等条約であるからこそ、習近平主席の側近の側近である劉鶴は意図的にそれに関わっていないようなふりをして、自らの政治的責任を回避しようとしているのであろう。そしてそれはまた、習主席自身の政治的権威を傷つけないための措置でもある。
さらに興味深いことに、13日に中国政府が記者会見を開いて合意に関する声明を発表した時、劉鶴が出ていないだけでなく、部長クラス(日本で言えば閣僚クラス)は誰1人として姿を現していない。今までの貿易協議に関わってきたはずの商務部長(商務大臣)の鐘山までが欠席している。出席者全員が各関連中央官庁の副部長(副大臣)ばかりである。
このような様子から見ても、アメリカとの第1段階の合意は中国にとっては実に不味いものであることがよく分かろう。不味いこそ、地位の高い幹部ほどそれから距離を置いて見せたのである。
中国経済を「破壊」するアメリカの制裁
習近平政権は一体どうして、このような屈辱の「不平等条約」を受け入れたのか。最大の理由はやはり、アメリカの制裁関税の破壊力で中国経済が大変深刻な状態に陥っていることだろう。
国内消費が決定的に不足している中で、対外輸出こそは中国経済成長の原動力の1つであるが、今年の8月から連続4カ月、中国の対外輸出はマイナス成長となっている。そして11月に中国の対米輸出は前年同期比では何と、23%以上も激減した。貿易戦争がさらに拡大していけば、中国経済がどうにもならないのは明々白々である。だから中国としてはどんなことがあってもアメリカの制裁関税の拡大を食い止めたい。そして今までの制裁関税をできるだけ減らしてもらいたい。だからこそ中国は止むを得ず、屈辱の不平等条約を飲んでしまったのである。
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