コラム

米中貿易戦争で迷走の習近平に「危機管理できない」疑惑

2019年10月03日(木)09時48分

強気になったトランプ政権に対し、習政権はまた柔軟姿勢を示して話し合いによる問題解決を訴えた。6月下旬に大阪で開かれたG20の期間中、習はもう一度トランプと会談して妥協の道を探った。会談の結果、アメリカ側が中国に対する新たな制裁関税の発動をしばらく行わないと表明したのに対し、中国側はアメリカから大豆などの農産物を大量に買うことを約束した。

しかし、どういうわけか会談後に中国側は「大豆を大量に買う」約束を一向に実行しない。それに業を煮やしたトランプ政権は、9月1日に対中制裁関税の第4弾を発動し、新たに1100億ドル分の中国製品に10%の追加関税をかけることにした。中国側も直ちに報復措置をとして、2回に分けて計750億ドル分の米国製品に5~10%を課す計画を公表。1日には原油や大豆など1717品目に対して発動した。

米中貿易戦争はさらなる拡大の一途をたどっていくのか――と思った矢先、9月中旬に入ると中国側はまたもや腰を低くしてアメリカに譲歩してきた。自ら発動したばかりの大豆などの米国農産物に対する制裁関税を「免除」にしたうえ、6月の米中首脳会談で約束した米農産物の大量購入を実施した。今さら約束を実行するのなら、どうして最初に同じことをやらなかったのだろうか。

中国側が譲歩したことでアメリカ政府も態度を軟化させ、話し合いに応じることになった。結果的に10月10日から米中貿易協議が再開されることとなっているが、その結果がどうなるかはまったく油断できない。協議再開によって米中貿易戦争が直ちに収束することはまずない。2018年7月、アメリカ側の発動した制裁関税第1弾に対し、習政権が「断固とした」反撃を行った時点で、貿易戦争の拡大はすでに既定路線になったからだ。

あやふやな対応で「ドツボ」に

しかし一連の経緯を丹念に見ていると、アメリカとの貿易戦争にどう対処するかという国家の一大事に当たって習政権は、さらに言えば習本人は、まったく無定見のままでその場その場での対応をしていたことがよく分かる。柔軟な姿勢で対処するなら、最初からその姿勢で当たればその後の展開は全く違ってくる。強硬姿勢を最後まで強硬姿勢を貫くのも良い。しかしそのどちらでもないようなあやふやな対応をとった結果、アメリカからかけられる制裁関税の範囲と量がますます増え、中国自身が決して望まない貿易戦争は拡大する一方になった。

人口14億人の大国を統治する習政権は、肝心の危機管理に関してどうしてこれほど無定見であやふやなのだろうか。習自身の政治家としての資質によるものか、それとも習体制そのものに何かの致命的な弱点があるからなのか。

本コラムでいずれ、この問題をより深く掘り下げて考察するつもりである。

20191008issue_cover200.jpg
※10月8日号(10月1日発売)は、「消費増税からマネーを守る 経済超入門」特集。消費税率アップで経済は悪化する? 年金減額で未来の暮らしはどうなる? 賃貸、分譲、戸建て......住宅に正解はある? 投資はそもそも万人がすべきもの? キャッシュレスはどう利用するのが正しい? 増税の今だからこそ知っておきたい経済知識を得られる特集です。

20250121issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年1月21日号(1月15日発売)は「トランプ新政権ガイド」特集。1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響を読む


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

石平

(せき・へい)
評論家。1962年、中国・四川省生まれ。北京大学哲学科卒。88年に留学のため来日後、天安門事件が発生。神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。07年末に日本国籍取得。『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(PHP新書)で第23回山本七平賞受賞。主に中国政治・経済や日本外交について論じている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story