コラム

議会襲撃とBLM、2つのデモで米警察が見せたダブルスタンダード(パックン)

2021年01月22日(金)17時00分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

A Stark Double Standard / ©2021 ROGERS-ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<事実無根の主張に煽られたトランプ支持の白人による議事堂乱入には手を貸し、不公平の是正を求めるBLMには厳戒態勢>

今月6日、(空想上の)選挙不正を訴え、大統領選の結果承認を阻止するべく大勢のトランプ支持者がアメリカ連邦議会議事堂に乱入した。窓を割る人もいれば、芸術作品を盗む人もいた。下院議場に押し入り、演台を持ち出す人もいれば、下院議長執務室の椅子でくつろぎ机に足をかけてしまう人もいた。しかも、日本の方が最も憤りそうなことに、土足で!

力で選挙結果を覆し、政府を変えようとした点では前代未聞の反逆行為ではあるが、デモ隊が首都で行進するのは初めてのことではない。記憶に新しいのは昨年6月。黒人に対する警察の暴力に抗議する Black Lives Matter(BLM)のデモがワシントンにやって来た。その時、迷彩服姿で武装した州兵が彼らの前に立ち、行進を止めた。もちろん、政府の施設や職員を守るために。ホワイトハウス前の広場に警察の騎馬隊が出動し、催涙弾やゴム弾でデモ参加者を排除した。もちろん(?)、トランプが広場を渡り教会の前で聖書を持って記念撮影したかったために......。とにかく、警備はやればできる!

でも今回、州兵は現れず、ゴム弾も催涙弾も使われなかった。警備体制に本腰が入っていない様子。もちろん、警察が全く役に立たなかったわけではない。参加者と自撮りしたり、議事堂を案内したり、バリケードをどかしたりした警察官もいたようだ。つまり、デモを助長するほうに役に立っている!

どうやらデモ参加者の肌の色と目的で警備が変わるらしい。アメリカで黒人は白人の2.5倍の割合で警察に殺されている。これは事実。その是正を求めてデモする黒人は暴力で退けられる。一方、大統領選での大規模な選挙不正は1つもないと50以上もの裁判で証明されているのに、事実無根の主張の下で反乱を起こす白人は、政府中心部まで親切に通される。どうも納得いかない。

しかし、そこまで不思議な事態ではないかもしれない。そもそもウソや事実無根の主張、そして肌の色を武器に、ホワイトハウスまで通され4年間大統領府を占領した男もいる。彼を通したのは警察ではなく、有権者だったが、幸いなことに今回の大統領選挙でまた有権者が彼を締め出した。やればできる!

【ポイント】
U.S. POLICE PRESENCE
米警察の配置

WHEN BLACK PEOPLE MARCH FOR BASIC HUMAN RIGHTS
黒人が基本的人権を求めて行進するとき

WHEN WHITE PEOPLE MOUNT A VIOLENT INSURRECTION
白人が暴力による反乱を起こすとき

<本誌2021年1月26日号掲載>

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story