コラム

「坦克人(タンクマン)」を想起させる「新戦車人」とは?──中国で「白紙革命」が起きる時

2022年12月05日(月)13時08分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
習近平

©2022 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<新疆ウイグル自治区のビル火災を発端に、大都市の大学生たちが習近平を名指しで退陣を要求するデモを行った。天安門事件より大胆だが、歴史は変わるのか?>

「共産党、退陣しろ!」「習近平、退陣しろ!」

11月26日の上海の夜空に響き渡った激しい叫び声は、世界を驚かせた。きっかけはその前々日の24日、新疆ウイグル自治区の区都ウルムチで起きた住宅ビル火災だ。ゼロコロナ対策による封鎖で火から逃げ遅れ、5歳の子供を含む10人が焼死した、と非難が集まった。

火災の動画はネットでまさに炎上し、上海、南京、広州、北京、成都といった中国の大都会の大学生たちが自主的に集まって被害者を悼み、怒りの声を上げた。

3年に及ぶ長いコロナ対策で人々のストレスは限界だ。3年前に初めてロックダウンされたとき、人々はただ「ご飯を食いたい」と叫んだだけだったが、3年後の今、若者はもう何にも恐れず「共産党と習近平は退陣しろ」「皇帝は要らない、民主が要る」と叫んだ。

この勇気ある訴えは、1989年の天安門事件より大胆でしかも直接的だ。トップの権力者を名指しして退陣を要求するデモは、49年の共産中国成立以来、初めてである。

各地の大学生たちが白紙を掲げて抗議に参加した。警察官はこう言ったという。「ロシアでは1枚の白紙を掲げても逮捕される。書かれていなくても、みんな何が問題か知っている」。

中国では、「印刷物を配った男が逮捕された。警察署に着くと、警官はそれが白紙であることに気付いた。男いわく『書かなくても、みな何が問題か知っている』」というソ連の政治ジョークが広く伝わっている。

勇気ある学生たちは一部の教師の応援も得ていた。復旦大学新聞学部の教師2人は警察から学生たちを守るために警察隊とにらみ合い、その写真はネットで拡散された。2人の勇気は天安門事件の直後、戦車の行く手を遮った「坦克人(タンクマン)」を想起させ、「新戦車人」だとネットで評判になった。

中・東欧や中央アジアの旧共産圏諸国でかつて起きた「顔色革命(カラー革命)」を防ぐため、中国の共産党政権はツイッター、フェイスブック、グーグルなど海外SNSの利用を禁止。中国独自のネット環境をつくり、厳しい言論統制を続けている。

しかし今回、白い紙が全てを塗り替えるかもしれない。色はなくても、一枚の白紙が新しい歴史をつくり出す。歴史の流れは止めることができない。

ポイント

坦克人
タンクマン・戦車男。「坦克」は中国語で戦車の意味。天安門事件翌日の1989年6月5日、現場近くの長安大街の路上で、武力鎮圧のため出動した戦車の車列の行く手を遮って立った男性を指す。事件への抗議とみられ、CNNやBBCなど外国メディアに撮影され、世界に知られた。直後に当局者とみられる男に連れ去られたまま、現在まで名前が分からない。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

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