コラム

「おすわり!」名門大学の学生も深夜のキャンパスで「ハイハイ」する理由

2022年11月21日(月)11時50分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
爬行

©2022 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<ほぼ全寮制の中国では、コロナで学生たちが大学に閉じ込められている。ペットでも飼えばストレス発散になるが、飼えないなら自分たちがペットになってしまえ!......奇妙な行動の流行>

「発瘋(ファーフォン)」は中国語で発狂すること。

新型コロナの流行が始まってもうすぐ3年になる今、中国の大学生らの間ではやっているのが「発瘋(発狂)文学」と「発瘋(発狂)行為」。支離滅裂な言葉で相手を混乱させつつ自分の不満を伝える「発狂文学」、そこから派生したのが「発狂行為」だ。

中国の大学はほぼ全寮制で、学生は基本学内に住む。彼らはゼロコロナ政策のおかげで外出できず、学内に強制的に閉じ込められる。1日24時間のうちネット授業の時間を含む23時間を学生寮で過ごす。そのストレスは大変なものだ。

「発狂文学」や「発狂行動」はそのストレスを発散する手段である。陝西省西安のある大学では、「段ボール犬」の飼育が流行している。ペットが飼えればストレスも減るが、学生寮では当然禁止。

そこで本物の犬ではなく、手作りした段ボール犬を飼う。わずかに認められた1時間だけ、段ボール犬を連れて学内を散歩する──その時間がメンタルケアなのだ。

「ポテトちゃんはとてもお利口。ほえないし、食事も要らない。ウンチもしない、お風呂も要らない。ホントにいい子!」と、ある大学生はネットに投稿した。全ての段ボール犬に名前が付けられ、学生寮の各部屋の前で「お座り」している。

深夜に大学生の集団が四つんばいになって歩く「爬行(パーシン)」も人気だ。北京の清華大学のような名門大学でも「爬行クラブ」が設立された。

「ずっと学内に閉じ込められ、いつ外出できるか全く分からない。毎日2万回以上頭がおかしくなる!」と、ある大学生は投稿した。ずっと移動制限されている大学生にとって、「爬行」は唯一の気晴らしなのだ。

勉強だけでなく、自由な友人関係や恋愛を楽しむのが大学生活の理想だろう。それが段ボール犬との散歩やハイハイで歩く毎日......。

「コロナゼロ年」の2019年に入学した学生は、このままだと卒業までの4年間をゼロコロナ政策の下で過ごす「新型コロナ大学生」の1代目になる。

ゼロコロナ継続を宣言した習近平(シー・チンピン)政権は、これから何代の新型コロナ大学生をつくるのだろう? そのうち中国社会全体に段ボール犬やハイハイ歩きが広がるかもしれない。

ポイント

品种:大学生/禁止投喂
品種:大学生/えさの投げやり禁止

爬行
北京伝媒大学の学生がネット掲示板に「運動場で一緒にはいつくばりたい学生はいないか」とメッセージを残したところ、多くの学生が応じた。動画がSNSで公開されると、清華大学以外の全土の大学・高校に波及。警備員が校庭を封鎖したり、呼び掛けた学生が警察に呼び出されるといった規制も始まっている。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB、一段の利下げ必要 ペースは緩やかに=シカゴ

ワールド

ゲーツ元議員、司法長官の指名辞退 売春疑惑で適性に

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story