自宅に届いた、マイナンバー「カード交付申請のご案内」を熟読する
その辺りへ議論が及んでいかないからこそ「免許証と変わらないじゃないか」といった認識すら出てくるのだろうが、現時点では本人確認カード程度の意味合いでしかなくとも、2018年をめどに、運転免許証・医療免許・教員免許・学歴証明・健康保険証などとの一体化が構想されているし、医療分野や預金口座との紐付けも進んでいくことになっている。
この制度拡大について、パンフレットでは極めてシンプルな記載で済ませている。「平成29年1月~ 国の行政機関の間で、情報連携を開始」、「平成29年7月~ 地方公共団体等も含めた、情報連携を開始」とだけ書かれており、詳細は書かれていない。申請した後で、知らぬ間にじわじわ範囲が広がっていくことになる。
セキュリティ面への不安が高まっているためか、安全面への配慮については丁寧な記載が目立つ。しかし、ICチップには「必要最低限の情報のみ記録」され、「『税関連情報』や『年金関係情報』など、プライバシー性の高い情報は記録されません」との記載には、「現時点では」が足りない。今年6月に日本年金機構の個人情報流出が起きた。この事件の存在が教えてくれたのは、外部の不正利用と同様に、内部の不正利用を防ぐには限界がある、ということ。世のイメージを悪い方向に導かないための応急処置として、改正マイナンバー法では、日本年金機構にはマイナンバーを使わせないという修正が加わったのだから露骨である。
DV被害に遭うなど、かつての配偶者から逃れるように暮らしている人からしてみれば、このマイナンバーの存在は重い。我が家には、世帯主である私宛の書類に、妻の分の通知カードも同封されてきたが、例えばDV夫から逃げるように暮らしている女性がいた場合、そしてその女性が働いている勤務先からマイナンバーの提示を求められるなど、番号を把握すべき事態が生じた場合、再度連絡をとる必要性が生まれることもあるだろう。あるいは、自分の場所や情報が把握されてしまうのではないかと、身の危険を感じるケースも想定される。
パンフレットには、枠外に小さく「DV等被害者などの方は、居所の市区町村に来庁して申請を行うことにより、個人番号カードの交付を受けることができます」と書かれているが、本来は通知カード送付の前に、この手の措置を十分に施しておくべきだった。DV被害者を意識して、通知カードの送付前に「居所情報」を登録すれば住民票とは別の住所に送付できる、という措置もとられていたが、この居所登録は、今年8月24日から9月25日までのわずか1カ月間しか受け付けられなかった。
「よりよい暮らしへ」、「『メリット』いっぱい」、「ぜひ申し込んでね」......ポップな言葉が並ぶパンフレット。これから拡大していく利用範囲について、このパンフレットではほとんど触れられていない。憲法13条が保障するプライバシー権を侵害しているとして、一斉提訴も起きている。住基ネットとは違い、マイナンバーは行政だけではなく企業も扱うことになる。送付する時点でこれだけのトラブルが生じているマイナンバー、「とにかくスタートさせてしまえ」との意気込みが何とも危うい。
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