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サム・ポトリッキオ Surviving The Trump Era
成田悠輔エール大助教の「高齢者の集団自決」発言、「米国最高の教授」が欠けている視点を指摘
アメリカでも世代間に亀裂は存在するが…… Jean-philippe WALLET
<アメリカでも高齢者福祉にメスを入れることは政治的なリスクを伴うが、それでも......。成田発言について、「米国最高の教授」の1人であるサム・ポトリッキオが考えてみた>
米ジョージタウン大学の教え子の学部生が最も怒ったのを見たのは2020年夏、いつ対面式の授業に戻れるかを話し合っているときだった。
私は2年後の卒業までマスクの義務化は解除されず、対面接触のチャンスがない状態が丸1年続く可能性が高いという予測を口にした。学生たちはひどく動揺した。無理もない。大学時代は人とのつながりを育むのに最適な時期なのに、大半を「ズーム大学」で過ごすことになると言われたのだから。
しかし私にとってショックだったのは、数人の学生が高齢者に殺意のこもった怒りをぶつけ、家から出ない年寄りを守るために人生を台無しにされたと暴言を吐いたことだった。
成田悠輔エール大学助教の「高齢者の集団自決」発言を知ったとき、この悪夢が私の頭をよぎった。成田は紛れもない秀才だ。博士号を取得したマサチューセッツ工科大学(MIT)には、経済学で最も優れた頭脳がそろっている。現在はMITに匹敵する名門エール大学の教員だ。
ただし、37歳で肩書はまだ助教。とびきり優秀な人材の多くは30代前半で教授になり、未来のノーベル経済学賞につながる重要な研究業績を既に残している。成田はまだこのレベルの仕事をしていないので、経済学者として歴史に名を残すチャンスはもうないと悟っているのかもしれない。
成田の発言には、政策の処方箋が欠けている。本人は高齢者の集団自決という表現は「抽象的な比喩」であり、高齢化社会の資源配分について必要な議論を促すと主張している。だが意地悪な皮肉屋なら、研究の代わりにSNSでの名声や注目を選んだのだろうと推測するかもしれない。
私は暴言を吐く学生や成田の炎上発言から、高齢者福祉のような手を出すと政治的に危険な政策について考えてみた。アメリカでは「サードレイル」と呼ばれ、連邦債務上限引き上げ問題に関連した社会保障予算の削減をめぐりバイデン政権と野党・共和党の微妙な綱引きが続いている。
科学的証拠に基づく処方箋が必要
私はロシアに10年以上滞在していたが、プーチン大統領への支持が最低に落ち込んだのは、おそらく年金の受給開始年齢を引き上げたときだったと思う。定年退職者への給付や福利厚生に手を付けることの難しさは、民主国家と専制国家、東洋と西洋の違いを問わない問題なのかもしれない。
ともかく、世代間に亀裂が存在するのは確かだ。アメリカでは経済成長の鈍化と人口に占める高齢者の割合の増加(30年には23%に)が予測されるなか、配分する資源の不足が懸念されている。このままでは高齢者優遇への反発が強まりかねない。
「サードレイル」政策を前進させるために必要なのは、成田のような挑発的「比喩」を避け、科学的証拠に基づく処方箋と代替案に焦点を当てることだ。社会保障の崩壊を叫ぶ政策通もいるが、私は「コップにまだ半分水が入っている」という楽観的視点から、技術革新とバイオテクノロジーの進歩(高齢者の医療費を削減できる)によって最悪の事態は回避できると考えている。
私の父はもうすぐ80歳。今も週に数百人の患者を診る神経科医だ。この前、父が車で空港に迎えに来てくれたとき、以前よりずっとゆっくり運転しているのに気付いた。私の教え子や成田のような視点の持ち主は、作業効率が低下したと即断するだろう。
しかし、父が無償で私のために時間を割いてくれて、私は帰宅に要した時間の分だけ高齢の父と過ごす時間を増やせたということもできる。年齢的にみて、父が空港まで迎えに来るのはあれが最後だったかもしれない。私はもう少し時間がかかってもよかったと思っている。
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