アングル:米オプションで疑惑の取引、相互関税停止発表直前で株価反発に賭け

トランプ米大統領が自身のソーシャルメディアで「相互関税」上乗せ分の一時停止を発表して株価を押し上げる前の数分間に、株式オプション市場では株価反発に賭ける大口の取引が行われたことがデータで判明した。ニューヨークで8日撮影(2025年 ロイター/Kylie Cooper)
Saqib Iqbal Ahmed
[ニューヨーク 10日 ロイター] - トランプ米大統領が自身のソーシャルメディアで「相互関税」上乗せ分の一時停止を発表して株価を押し上げる前の数分間に、株式オプション市場では株価反発に賭ける大口の取引が行われたことがデータで判明した。
このあまりにもタイミングの良い取引は多額の利益を得られた公算が大きく、野党民主党議員らは市場操作ないしインサイダー取引がなかったかどうか調査を求めている。
短期的な相場変動に賭ける取引は珍しくないし、今回疑惑を招いた取引も特にあらかじめ何か確たる情報をつかんでいなくても、実行するのは難しくなかっただろう。トレーダーは毎日、さまざまな思惑に基づいて相場の戻りに期待したり、ヘッジに動いたりしているからだ。
また複数の専門家は、ここ数日はボラティリティー上昇に伴ってオプションの売買高が記録的高水準に膨らんでいる上に、市場を動かすニュースが次々出てきているので、これが問題のある取引だと特定するのは難しいと語る。
Cboeグローバル・マーケッツの市場情報バイスプレジデント、ヘンリー・シュワルツ氏は「現時点で買い手が単に幸運なタイミングをつかんだだけなのかどうか知るよしもない。決定的な(不正の)証拠は見つけられてはいない」と述べた。
デリバティブを駆使するオプション取引はしばしば、インサイダー取引のように見えることがある。一方で売買高は1日当たり数十億ドルに達し、ボラティリティーが高まる局面では取引規模が跳ね上がる。
ホワイトハウスは電子メールの声明で、こうした懸念に直接言及しなかった。デサイ大統領報道官は「メディアが恐怖をおおげさにあおるのをやめない中で、経済安全保障について市場と国民を安心させるのは大統領の責任だ」と述べた。
過去にオプション絡みのインサイダー取引を摘発してきた米証券取引委員会(SEC)はコメントを拒否した。
<絶好のタイミング>
トランプ氏が自身のソーシャルメディアで相互関税上乗せ分の一時停止を明かし、S&P総合500種が9.5%上昇したのは東部時間午後1時18分だった。
市場データによると、これに先立って特定のオプション契約の取引が急増した。例えば午後1時ごろには、S&P総合500種に連動する上場投資信託(ETF)「SPY」原資産価格が約501.50ドルだった時点で、SPY終値が502ドルを超えるオプションのコール(買う権利)が5105枚ほど、平均4.20ドルで売買されたことが、トレード・アラートのデータで分かる。
その後株価が急騰すると、このコールの価格は一時42ドル前後まで上昇。計算上は5105枚全て保有していれば、214万ドルの元手が2144万ドル程度に膨らんだことになる。
同様にSPY原資産価格が509ドルで引けると見込むオプションのコールの価格も、1時10分ごろの平均2.14ドルで計算すると、ポジションの評価額は62万4000ドルから9日の取引終了時には1000万ドル前後に増大した。
ロイターは、これらのコールを売買したトレーダーが1人か複数か、また既に利益を確定したかどうかは確認できなかった。
<判別困難>
トランプ氏の関税を巡る方針のブレに伴う市場の混乱はインターネットでも注目され、グーグルの検索ワード順位では「インサイダー取引」が急上昇している。
9日の午前中にはトランプ氏が自身のソーシャルメディアに「全てはうまくいく。米国はかつてないほど大きく、良くなる」「今は素晴らしい買いの機会だ」などと相次いで投稿した。
議会下院で野党民主党トップのジェフリーズ院内総務は、過去数日間に起きたかもしれない株式購入の決定について徹底的に事実を究明しようとする複数の議員がいると明らかにした。
しかし9日は大荒れの市場を背景にオプションの建玉が約8500万枚と過去最高になったことから、疑わしい取引をあぶり出すのはなおさら困難だ。
インタラクティブ・ブローカーズのチーフストラテジスト、スティーブ・ソスニック氏は「重要なのは、売買高とボラティリティーが極めて大きいので、タイミング良く行われた多くの取引のうちどれが単なる偶然で、どれが不正なのかは判断ができない」と述べた。