アングル:ミャンマー大地震、ネット遮断が支援活動の障害に

4月9日、ミャンマーで発生したマグニチュード7.7の大地震は発生から10日以上が経過したが、3500人以上とされる犠牲者の多くが倒壊した建物の下敷きになったままで、家族らもその位置や安否が確認できない状態に置かれている。写真は3日、マンダレーの南のアマラプラでテントに避難して夜を過ごす住民(2025年 ロイター)
[バンコク 9日 トムソン・ロイター財団] - ミャンマーで発生したマグニチュード7.7の大地震は発生から10日以上が経過したが、3500人以上とされる犠牲者の多くが倒壊した建物の下敷きになったままで、家族らもその位置や安否が確認できない状態に置かれている。
その原因の一つがインターネット接続の欠如だ。地元住民や人道支援者らは、これがミャンマーにおける災害対応を著しく妨げていると指摘している。
北西部のザガインに住む性的少数者(LGBTQプラス)活動家のガスさん(30)は、友人2人の消息がまだ確認できないと話す。2人は3月28日の地震発生時、震源地のマンダレーにいたことが分かっている。
「友人や家族、仲間と連絡を取って無事かどうかを確認するのが本当に難しい。彼らのことがとても心配だ」と、ガスさんはトムソン・ロイター財団に語った。
軍事政権は2021年に民主政権から権力を奪取して以来、少数民族武装集団や市民的不服従運動といった反対勢力を抑圧するため通信を統制下に置いている。
軍は2021年以来、約6500人を殺害し、子供を含む約3万人を投獄したと指摘されている。
ガスさん自身も、抗議活動に参加したことやLGBTQプラスのコミュニティーのメンバーであることを理由に軍に指名手配され、身を隠して暮らしている。反対意見を抑え込むため、国土のほぼ3分の1でインターネットが全く利用できないほか、他の地域ではファイアウォールによってソーシャルメディアやニュースサイトへのアクセスが制限されている。
120の世界的組織がインターネット接続は「人命救助のための緊急対応を調整するのに不可欠」であると呼びかけているにもかかわらず、遮断は続いている。
<デジタル独裁政権>
活動・研究団体「ジャスティス・フォー・ミャンマー」の広報担当者ヤダナール・マウン氏は、「デジタル独裁政権」が地域社会が命を救うのに必要な情報にアクセスしたり、大切な人と連絡を取ったりすることを妨げていると述べた。
「政府と通信業界の企業は軍事政権に対し、インターネット遮断命令と検閲を直ちに解除するよう圧力をかけることが不可欠だ」とマウン氏は述べた。
同国で活動する人道支援活動関係者は、インターネットが完全に遮断された地域では、住民が援助団体に要請を伝える電話をかけるために数日かけて移動しなければならなかったと報告した。
「救助活動も非効率的になってしまう」と、この人物は話した。
ガスさんによると、通信手段がなかったため、救助が彼の町に到着するまでに3日もかかったという。
通信遮断により、ミャンマー国民の多くは地震後の被害状況に関するニュースを知ることができなかった。
ガスさんや仲間が、地震が彼らの地元だけではなく、実際には広範囲に及んでいることを知ったのは発生から24時間以上が経過してからだった。その地域の事業主が隠れて所有していた希少な衛星インターネットサービス「スターリンク」にアクセスできて、初めて被害の程度を知ることができたという。
スターリンクは、米実業家イーロン・マスク氏が率いる宇宙企業スペースXが提供する、衛星に直接接続して動作するポータブルインターネット機器だ。しかし、最低価格は389ドル(約5万7000円)で、1日平均4800チャット(約330円)の収入しかないほとんどのミャンマー人には手が届かない。
ガスさんは現在は収入を得る手段がないが、2時間で1000チャットを支払って、地震の最新情報を読んだ。
ガスさんは、インターネットへのアクセスが制限されているのは、軍が国民に「軍の犯罪や自国民への厳しい処遇」を知られないようにしているためだと考えている。
地震発生以来、被災地に対する軍主導の攻撃や、支援を必要とする人々への援助が妨害されているとの報告もある。
<衛星とAIの役割>
専門家らは、スターリンクのような技術があれば、ネット接続が利用できず、物資の配送ルートが遮断されている場合でも、人道支援活動従事者らが空路で到着して活動できると述べた。
「スターリンクは、地上インターネットが利用できないときに重要な接続手段となる。今回のケースでは地震による通信インフラの被害と、軍事政権によってネットと携帯電話が遮断された状態であることの双方の理由で地上のネットが利用できなかった」と、非政府組織(NGO)「国際危機グループ」のミャンマー担当のシニアアドバイザー、リチャード・ホーシー氏は電子メールで述べた上で、「しかし、スターリンクは高価で、現地にそれほど数がない」と指摘した。
複数の援助機関によると、可能な場合には通信や対応計画の策定にに衛星やAIが活用されているが、軍事政権からの報復を恐れて詳細を明かせないとしている。
中国の救助隊は、新興AI企業ディープシーク(深度求索)経由で特別に作成されたAI翻訳ツールを使用し、地元住民と英語やビルマ語でコミュニケーションを取っていると報じられている。
ホーシー氏は、欧州連合(EU)の「コペルニクス」も、遠隔地からの被害状況評価や、状況の全体像を迅速に把握する上で役立つもうひとつのツールだと述べた。
マイクロソフトのAI for Good Labプログラムも同様の取り組みを行っている。15基の衛星が撮影した写真をAIで分析し、最も被害の大きい地域を特定している。
人道支援活動関係者は、こうした画像分析により、人々が集まっている場所や最も深刻な被害を受けた場所を各組織が特定できるようになったと述べた。
しかし、ミャンマーでは大雨が続いて雲に覆われた状態にあるほか、「政治的な制限」によりドローン飛行の頻度が制限されている。
「これらのツールはどれも、実際に自由に現場に入る活動の代替にはならない」とこの関係者は述べ、画像から人々が何を必要としているかを推測するよりも、コミュニティーのメンバーと話し合ったり、直接評価したりする方が効果的だと付け加えた。