コラム

株価下落、政権幹部不和......いきなり吹き始めたトランプへの逆風

2025年03月12日(水)14時45分

市場はこれを無視できなくなっており、その結果の株価の下落となっているわけです。そんな中で、テスラ社は、「モデルY」という新型車を発表して反転攻勢を狙っているようです。マスク氏は、この「モデルY」については自信満々で、非常に良いクルマなのでトランプ大統領にプレゼントするとしていました。

この「テスラY」については、トランプ氏は苦笑しながら贈呈を受けるとしています。ですが、そもそも完全なEV車ですから、ガソリンをモクモク焚くのが好きなトランプ派の有権者は全く興味がないわけです。つまり、政権入りをしても、テスラ車にとっては、EV補助金カットでライバルが倒れる以外は、あまりメリットがないわけで、大統領の「苦笑」はそうしたパラドックスを暴露したようなものです。

それにしても、マスク氏にしてみれば、政権に参加したばっかりにテスラ社の時価総額に換算して、7000億ドル(ほぼ100兆円)が吹っ飛んだのですから大変です。


スタグフレーションという悪夢

思わぬ逆風は、法曹界からも吹いています。トランプ氏自身が、筋金入りの保守派として最高裁に送り込んだと思っていたエミィ・コニー・バレット判事が、意外にも反旗を翻したのでした。USAIDによる世界への援助を停止するのは「違憲」という判断に乗ったのです。これで中道派のロバーツ長官とリベラル判事3人と共に5人の多数を制したことで、明確な違憲判決が出されました。

そんなわけで、ルビオ国務長官やバレット最高裁判事など「身内」からも逆風の動きが出てきたのですが、やはり何といっても大きいのは経済です。このまま、トランプ氏が狭い意味での「アメリカ・ファースト」主義で突進するだけですと、経済は行き詰まる可能性が出てきました。

少なくとも、物価高は抑制できず、株安がダラダラと続くかもしれません。そんな中で、「スタグフレーション」つまり物価高の中の不況という悪夢が現実になるかもしれない、それを市場がおそれ始めているのは明らかです。

【関連記事】
トランプ第2期政権は支離滅裂で同盟国に無礼で中国のほうがましに見えてくる── 元豪首相が激辛批判
「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由

ニューズウィーク日本版 トランプショック
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月22日号(4月15日発売)は「トランプショック」特集。関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ガザ停戦協議、進展なく終了 人質巡りハマスに柔軟性

ワールド

輸入医薬品に関税、「さほど遠くない」将来に トラン

ワールド

習主席がベトナム訪問、45件の協定に調印 供給網・

ビジネス

短期インフレ期待、23年10月以来の高水準に=NY
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトランプ関税ではなく、習近平の「失策」
  • 3
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができているのは「米国でなく中国」である理由
  • 4
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    シャーロット王女と「親友」の絶妙な距離感が話題に.…
  • 7
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    米ステルス戦闘機とロシア軍用機2機が「超近接飛行」…
  • 10
    NASAが監視する直径150メートル超えの「潜在的に危険…
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 4
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 7
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 8
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 9
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 10
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story