コラム

日本企業の国内軽視が招いた1人当たりGDPの凋落

2024年12月25日(水)14時30分

日産とホンダが経営統合しても日鉄がUSスチールを買収しても日本のGDPにはほとんど寄与しない Sean Pavone/iStock

<海外生産への転換や現地法人の買収を進めて国内の産業が空洞化すれば、日本のGDPが損なわれることは分かっていた>

内閣府が12月23日に発表した「国民経済計算(年次推計)」によりますと、2023年の日本の1人当たり名目GDP(国内総生産)は、前年比約0.8%減の3万3849ドルでした。これは、経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国中22位となり、21位の韓国に抜かれたことになります。

ちなみに韓国に抜かれるのは今回が初めてではなく、計算基準が変更されたために、一昨年の2022年でも、韓国が21位、日本22位だったそうです。更に、年末が迫った今年、2024年に関しては更に一層円安が進んでいることもあり、数字の改善は期待できないと思います。

大昔から、1人当たりGDPが3万ドルというのが曲がりなりにも先進国としての最低水準と言われてきました。日本が、この水準を割り込むのは時間の問題かもしれません。1人当たりの数字とは別に、総額で見た日本の名目GDPについても、長い間米中の後の3位だったのが、2023年にはドイツに抜かれて4位となり、背後からはインドが迫ってきています。

このようにGDPが低迷しているのには、様々な原因がありますが、一番の要因は財界、つまり日本の主要な企業が余りにも国内を軽視していることが挙げられます。例えば、最近大きな話題となっている経済ニュースに関して考えてみても、国内経済とは直接関係のない話がほとんどです。


自動車の主要な市場も生産拠点も海外

例えば、日産を台湾企業の鴻海が買うのか、それともホンダと経営統合するのかというニュースもそうです。このニュースの背景にあるのは世界的な動きである自動車のEV化と、AV(自動運転)化です。ですが、エネルギーの安定供給が難しく、また老朽化した橋などの多い日本では、重い電池を搭載したEVには限界があります。

また、EVになると、複雑な内燃機関から自由になり、ギアなども簡素化されるため、主要な部品は大きな単位に組み上がったモジュールという半完成品になっていきます。このモジュールにおいて標準化を進めてシェアを獲得すると、市場の過半を制覇できる可能性があります。

このモジュール生産については、仮にホンダ=日産連合ができても、鴻海が日産を買っても日本は生産拠点にはならないと思います。ロボットを稼働させる電力の問題に加えて、英語のオペレーションに対応するロボットのオペレーターに適当な人材の層が厚くないからです。

更に、現在の日産もホンダも主要な市場は海外、そして主要な生産拠点も海外となっています。そしてデザインやマーケティング、AI関連の研究開発の拠点も海外に流出しつつあります。つまり、もうこの2社は日本のGDPに寄与する部分は僅かであり、今回の再編がどうなっても同じことなのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、駐パナマ大使を選出 運河巡り管理権の奪

ワールド

米年末商戦、小売売上高昨年上回る ネット販売好調=

ワールド

カザフの旅客機墜落、ロシア防空システムが関与=アゼ

ワールド

ガザで報道車両に空爆、イスラエルは戦闘員標的と説明
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2025
特集:ISSUES 2025
2024年12月31日/2025年1月 7日号(12/24発売)

トランプ2.0/中東&ウクライナ戦争/米経済/中国経済/AI......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊」の基地で発生した大爆発を捉えた映像にSNSでは憶測も
  • 2
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3個分の軍艦島での「荒くれた心身を癒す」スナックに遊郭も
  • 3
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部の燃料施設で「大爆発」 ウクライナが「大規模ドローン攻撃」展開
  • 4
    「とても残念」な日本...クリスマスツリーに「星」を…
  • 5
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 6
    ウクライナの逆襲!国境から1000キロ以上離れたロシ…
  • 7
    日本企業の国内軽視が招いた1人当たりGDPの凋落
  • 8
    滑走路でロシアの戦闘機「Su-30」が大炎上...走り去…
  • 9
    世界がまだ知らない注目の中国軍人・張又俠...粛清を…
  • 10
    韓国Z世代の人気ラッパー、イ・ヨンジが語った「Small …
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊」の基地で発生した大爆発を捉えた映像にSNSでは憶測も
  • 4
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 5
    ウクライナの逆襲!国境から1000キロ以上離れたロシ…
  • 6
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 7
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医…
  • 8
    9割が生活保護...日雇い労働者の街ではなくなった山…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    【駐日ジョージア大使・特別寄稿】ジョージアでは今、…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 6
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 7
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 8
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 9
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 10
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story