コラム

トランプ暗殺未遂で「団結」を実現した共和党、分裂に直面する民主党

2024年07月17日(水)15時00分

問題は民主党です。この間に立て続けに発生した4つの事件、つまり、

・「バイデン大統領の健康不安が噴出し、しかも払拭されていない」
・「最高裁が限定つきながら大統領の不起訴特権を認め、その影響からかトランプ氏の機密文書持ち出し事件の裁判がやり直しになった」
・「トランプ氏が暗殺未遂事件を生き延びることで、タフで強運というカリスマ性を増幅した」
・「共和党の副大統領候補に39歳のバンス議員が指名され、世代交代の動きが始まった」

という4つの問題に対して、民主党は全く対応ができていません。それどころか、新たな対立を抱え始めています。それは、

・「トランプ政権の復活を恐れる余り、バイデン氏以外の候補にスイッチするリスクが取れないとしてバイデン候補に強く固執するグループ」
・「世代交代と団結を実現しつつある共和党に対して、今こそ民主党も世代交代による組織の刷新を求めるというグループ」

への分裂です。更に、この分裂の奥には民主党の抱えている根深い政策の対立があります。

民主党に残された時間は少ない

・「市場主義、グローバリズム、国際協調、NATO、国連、イスラエル寄りの中東和平を重視しつつ、環境と格差については穏健なアプローチをする中道派」
・「国内雇用を重視し、格差是正を強く支持し、環境問題には厳しい具体策を要求し、軍事外交はやや孤立主義で国連やNATOは尊重するが、中東などへの米軍の介入には厳しく反対し、中東和平においてはパレスチナに同情的な左派」

の2つで、この2つはバイデン氏の老獪な調整で何とか呉越同舟が保たれています。ですが、ハリス氏のように「人権には敏感だが、政策はハッキリ中道派」という人の場合は、よほど注意しないと左派との共闘が難しくなってしまうのです。

バイデン候補に固執するのか、世代交代をするのか、左派との共闘をどう維持するのか、とにかく民主党には分裂の要因が渦巻いています。今週は、共和党の全国大会が開催されていますが、民主党の全国大会は8月19日からで残り1カ月に迫っています。

そんな中で、今週末(19~20日)には、民主党全国大会の大統領候補選出の手続きを決める事務方の重要な会議があります。団結しつつある共和党に対抗して、民主党が結束を示すには、残った時間はあまりないと言えそうです。

【関連記事】
「神に祝福された候補」とトランプ支持者...死を免れて神格化に懸念も
トランプを「バカ」と揶揄した副大統領候補...「39歳ベストセラー作家」J.D.バンス上院議員とは?

20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国副首相が米財務長官と会談、対中関税に懸念 対話

ビジネス

アングル:債券市場に安心感、QT減速観測と財務長官

ビジネス

米中古住宅販売、1月は4.9%減の408万戸 4カ

ワールド

米・ウクライナ、鉱物協定巡り協議継続か 米高官は署
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story