コラム

アメリカで加速するAIの実用化、日本の進むべき道は?

2024年07月31日(水)18時20分

グーグルの言語モデルAIサービス「ジェミニ」 Jakub Porzycki/REUTERS

<米大手ITはいずれもAI搭載モデルを主力商品として売り込んでいる>

パリ五輪が開会し、連日熱戦が繰り広げられています。アメリカの場合は、例によって日本の地上波にあたる3大ネットワークのNBCが独占中継権を持っています。NBCでは、ニュース枠も含めて事実上一日中ブチ抜きで五輪中継を続けています。ただ、競技数が多いこともあり、1チャンネルでは収まらないわけで、系列のUSAなど複数の局でも中継をしています。加えて全競技のネット配信もされています。

アメリカの場合はこのネット配信は広告付きです。30秒とか1分といった長めのコマーシャルを視聴すると中継に切り替わり、長い中継の場合は途中でも広告の追加の視聴が入ってくるというシステムです。ところで、今回も巨額のマネーが動いているアメリカの五輪放映におけるコマーシャルですが、今年の場合は圧倒的にAI関係の広告が目につきます。


例えばグーグルは、「ジェミニ」という大規模な言語モデルAIサービス。メタはフェイスブックやインスタグラムと連携した「メタAI」。マイクロソフトは365と連携した「コパイロット」というネーミングを売り込んでいます。広告の訴求としては、どれも似たりよったりで、簡単な箇条書きの要点を入力すると立派なレターを返してくるとか、簡単な企画書のメモを入力するとプレゼンが仕上がるといった具合です。知的活動の生産性向上ツールとしての具体的なイメージを広めようという広告の意図は明らかで、とにかくAIを万人に向けて売り込んでいこうというわけです。

AIが知的職業を圧迫する?

AIということでは、現在のアメリカの株式市場もAI関連の銘柄が株価を牽引しています。特に目立っているNVIDIAの場合は、以前はコンピュータの動画性能に関わるビジュアルメモリ、つまりゲーム関連の半導体を製造していたのですが、一時期はその半導体が暗号資産のマイニングに使われることで人気が高まりました。そして現在はAIに利用されるということで成長が期待されています。同じく半導体のAMDなども同様でAI時代の到来を見越した期待が集まっているのです。

AI、特に現在一気に実用化が進んでいる大規模な言語データによる対話型の知的ツールに関しては、勿論アメリカでも問題点は指摘されています。特に、高校生以下の生徒たちが宿題の答えを安易にAIから得てしまう問題は深刻です。中でも、算数の問題をイメージとして入力すると、解法と解答を返してくるサービスは低学年から乱用されており、放置すると広範な学力崩壊を招きかねないという声が上がっています。

また脚本家(日本で言う放送作家を含む)組合が、番組台本制作にあたってAIを使用させないためにストライキを行うなど、AIが知的職業を圧迫する危険性は広く認識されるようになりました。ですが、その一方で事務的なコミュニケーションにおいては、AIの利用はどんどん進んでいます。営業文書、請求書、求人求職の際のやり取りなどでは、儀礼的な「送り状」は衰退しているものの、大切な内容はレターにすることは多いわけです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イランハッカー、盗んだトランプ陣営資料をバイデン陣

ビジネス

米利下げ、日本経済や市場にどのような影響あるか注視

ワールド

全米トラック労組、大統領選でいずれの候補も支持せず

ワールド

台湾当局、ヒズボラ通信機器一斉爆発に「細心の注意」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
2024年9月17日/2024年9月24日号(9/10発売)

ユダヤ人とは何なのか? なぜ世界に離散したのか? 優秀な人材を輩出した理由は? ユダヤを知れば世界が分かる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    クローン病と潰瘍性大腸炎...手ごわい炎症性腸疾患に高まる【新たな治療法】の期待
  • 2
    北朝鮮で10代少女が逮捕、見せしめに...視聴した「禁断の韓国ドラマ」とは?
  • 3
    「ポケットの中の爆弾」が一斉に大量爆発、イスラエルのハイテク攻撃か
  • 4
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 5
    浮橋に集ったロシア兵「多数を一蹴」の瞬間...HIMARS…
  • 6
    「トランプ暗殺未遂」容疑者ラウスとクルックス、殺…
  • 7
    キャサリン妃とメーガン妃の「ケープ」対決...最も優…
  • 8
    地震の恩恵? 「地震が金塊を作っているかもしれない…
  • 9
    岸田政権「円高容認」の過ち...日本経済の成長率を高…
  • 10
    米大統領選を左右するかもしれない「ハリスの大笑い」
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは...」と飼い主...住宅から巨大ニシキヘビ押収 驚愕のその姿とは?
  • 3
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢な処刑」、少女が生き延びるのは極めて難しい
  • 4
    キャサリン妃とメーガン妃の「ケープ」対決...最も優…
  • 5
    【クイズ】自殺率が最も高い国は?
  • 6
    北朝鮮で10代少女が逮捕、見せしめに...視聴した「禁…
  • 7
    ロシア空軍が誇るSu-30M戦闘機、黒海上空でウクライ…
  • 8
    エリザベス女王とフィリップ殿下の銅像が完成...「誰…
  • 9
    ウィリアムとヘンリーの間に「信頼はない」...近い将…
  • 10
    世界に離散、大富豪も多い...「ユダヤ」とは一体何な…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 3
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 4
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 5
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 6
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 7
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
  • 8
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは.…
  • 9
    止まらない爆発、巨大な煙...ウクライナの「すさまじ…
  • 10
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story