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パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因
2つ目の要因は政治的分断です。例えばニューヨーク市における、イスラエル支持派とパレスチナ支持派のデモは、昨年10月7日のハマスによる奇襲テロと、これに対するイスラエルの軍事行動が始まってすぐに発生しています。ですが、今回のデモやテント村がエスカレートした契機となったのは、約2カ月後の12月に行われた連邦議会における公聴会で、各大学の学長が批判に晒されたという事件でした。
この時は、特に下院の公聴会で共和党の議員団でナンバー3を務めるエリス・ステファニク議員が猛烈な勢いで学長たちを追い詰めたのでした。ステファニク議員は、コロンビア大学などで発生しているパレスチナ支持のデモは、「アンチ・セミティズム(ユダヤ系迫害)」であり、ユダヤ系学生への脅威になっているという論理で学長たちの見解を迫りました。
これに対して、学長たちは「暴力を示唆する文脈なら問題だが、そうでなければ言論の自由が優先する」という至極真っ当な意見を、淡々と繰り返すだけで、有効な反論ができなかったのでした。発言としては正しいのですが、政治的には「偉そうな大学学長の反社会的な硬直姿勢」だとして、見事に切り取られ、叩きのめされたのでした。今回に限って異様なまでにユダヤ系に肩入れしているCNNなどが、この動きに加担していました。
これによって、ステファニク議員は「エリート大学の学長を懲らしめる」という政治ショーを成功させて、自身の政治的影響力拡大に成功したのでした。ちなみに、ステファニク議員はハーバードの出身で軍歴もあるという、現代のアメリカの保守派が最も嫌う「アメリカのエリート」です。ですから、自分の出身大学であるハーバードの学長たちを、「庶民代表」として懲らしめるという「セレモニー」を完遂することは、特別な意味を持っていたのでした。
このステファニク議員の一種の挑発の結果として、「パレスチナ支持の言動は、それ自体がユダヤ系へのヘイトとして犯罪を構成する」というような拡大解釈が成立してしまいました。今回の一連の各大学による処分や警察の導入は、この論理を根拠にしています。もちろん、そのために各大学の教員の多くは激怒しているのですが、これに対しては多くの保守政治家が「デモに参加した教員はクビ」だと主張しており、まるで戦前の東大(例えば、河合栄治郎や矢内原忠雄が追放された事件)のような話になっています。
政治家のアピールも背景に
例えば、共和党のジョンソン下院議長も、最初の逮捕劇の直後にコロンビア大を訪問していました。そしてテレビのクルーの前で、「こうした事態を招いたのは遺憾」だとして学長の辞任を求めました。ジョンソン議長の場合も、「ウクライナ支援予算」の成立を助けたとして保守派に恨まれているので、「自分が真正保守」だというアピールが必要だったのです。それがコロンビアでのパフォーマンスの背景にはあります。
いずれにしても、こうした政治家の暗躍は若い学生たちをますます怒らせています。反対に、バーニー・サンダース議員などは若者に強い影響力を持っています。サンダースは自分がユダヤ系であり、そのために若いときには「イスラエルの入植地で労働して自分探しをした」という経歴があります。そのサンダース議員が厳しい口調でイスラエル軍の非人道的な攻撃を批判するというのは、若者の感性には刺さるのでしょう。
同様に、ソマリア出身のイスラム系として、「イスラム嫌悪(イスラムフォビア)」に対して異議申し立てを続けてきた、イルハン・オマル議員も若者に支持されています。彼女の娘であるイスラ・ヒリシ(コロンビアの姉妹校である女子大のバーナード・カレッジの学生)は、コロンビアにおけるパレスチナ支持運動のリーダーになっています。
政治的分断の時代であるために、保守派議員はこのような学生運動を激しく非難するパフォーマンスを支持者に見せたがります。一方で、民主党の左派は、一貫して中東問題におけるパレスチナの人権を問題視しています。そのような政治的分断という社会背景も、今回の問題で対立をエスカレートさせている要因と言えます。
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