コラム

日本の「コロナ出口戦略」における3つの問題

2022年11月30日(水)15時00分

2点目は治療薬です。ウイルスに対して体内での増殖を抑制する薬剤が数種認可されており、重症化リスクの高い人に投与されて実績のあるファイザー製の「パキロビッドパック」に加えて、より広範な対象に使える塩野義製薬の薬剤「ゾコーバ」も実用化されています。

アメリカでは他でもないバイデン大統領が感染した際に、「パキロビッドパック」が使用されて効果があったことが知られています。こうした抗ウイルス薬剤の実用化は、コロナ禍対策のブレイクスルー(突破口)だという言い方もされています。

日本のカルチャーには、予防薬の副反応には敏感な反応を示す伝統がありますが、少しでも健康が損なわれた場合には薬剤や治療法など人為に頼ることへの抵抗感は少ないと思います。政府としてこうした治療薬の普及を進めることは可能と思います。

3点目は、感情論です。長期に渡ったパンデミック期間を通じて、感染対策というものが、「安全」すなわち感染症の対策として科学的に有効なものだけでなく、「安心」つまり感情の動物である人間の心理に寄り添うものへと拡大しています。

欧米と比較すると、日本独自と言える屋外でのマスク着用、飲食店で同行客同士を隔てるアクリル板、黙食といった習慣も、飛沫感染対策では対抗できないオミクロン株とその変異に対しては、「安全」確保というよりも、「安心」対策という意味合いの方が大きいかもしれません。

対策を難しくする感情論

もっと言えば、「安心」が損なわれた際に攻撃的になる人の存在を考えると、メンタルを含めた「安全」を守るためには「安心」にも十分な対策が必要な社会とも言えます。

この問題をどう解決するかですが、「安全=科学」を根拠に「安心だけ」を追求するような非科学的な対策を批判しても上手く行かないと思います。アメリカの場合は、右派(南部から中西部)=無対策、中間から左派(東北部と西海岸)=世界標準に近い対策、陰謀論者=極端な無対策、というように政治的に色分けがされています。全くいいことではありませんが、「お互いが相容れない」ことは相互に理解がされており、説得を諦めている分まだ単純だと言えます。

では、日本の場合はどうしたらいいのかというと、感情論派+高リスク層=極端な対策、国内志向=強めの対策、国際派(欧米派)=軽めの対策というような、カルチャー別のグラデーションがあるようです。少なくとも、アメリカとの比較で見ているとそう見えます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場・寄り付き=ダウ約300ドル安・ナスダ

ビジネス

米ブラックロックCEO、保護主義台頭に警鐘 「二極

ビジネス

FRBとECB利下げは今年3回、GDP下振れ ゴー

ワールド

ルペン氏に有罪判決、被選挙権停止で次期大統領選出馬
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 5
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story