コラム

中等症は自宅療養という方針で、医療崩壊は防げるのか?

2021年08月04日(水)13時40分

自宅療養の場合にも、医療従事者がどうケアしてゆくのか、要員の問題はついて回ります。例えば、人工呼吸器の設定と管理はどうするのか、血中酸素濃度が異常値となったら自動的に治療もしくは入院ができる体制は取れるのか、それ以前に急速に容体が悪化する兆候を見逃さないために、医師や看護師をどう巡回させるのかといった問題は重要です。

医師や看護師については、ワクチン接種の要員確保が問題となっています。ですが、おそらく増加が予想される在宅療養者のモニター、巡回診療といった診療行為は、簡単な研修で有資格者を拡大できるようなものではありません。どう要員を充当するのか、具体的な計画の説明が必要です。

あくまでも通常診療は守るのか

3つ目は、通常診療への影響です。アメリカの場合は、感染爆発が起きてコロナ病床があふれた場合は、通常診療のためのICUを閉めてコロナ患者に回してきました。おそらく、それによってコロナ以外の患者で救命ができなかったケースもあると思われます。ですが、治療が遅れると、軽症から一気に容体が悪化して数日内に死亡する可能性のあるコロナ患者は、あくまで優先するというのが社会的な判断となっています。

日本はこの考え方を取っていません。今回の自宅療養によりベッドを確保するという方針は、コロナの重症者に向けてベッドを空けるためと説明されています。ですが、同時にあくまで通常診療を守り、民間の病院で対応不能なところにはコロナ患者を回さないという「現状」を維持するという判断も含まれています。

これは厚労省や医師会が漠然と変革を嫌っており、政治家はこれに流されているという説明で済ませてはいけないと思います。法律や制度の問題として、変えられないものは変えられないということであり、それでも変えるということならば、世論と政治が真剣な対話をしなくてはなりません。

中等症の自宅療養については、国会で批判されたことから、田村厚労相は「見直す」として方針撤回を匂わせています。仮に本当に見直しをして、感染爆発が悪化しても中等症患者を100%入院させるのであれば、今度こそ通常診療の現状維持を諦めることになります。それならば、問題を直視した真剣な議論が必要です。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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