コラム

パワハラは禁止だけでは不十分 生産性向上のためには何が必要?

2020年09月15日(火)14時20分

長年、日本を苦しめてきたパワハラ体質は改善されてきたのは事実だが…… Ja_inter/iStock.

<日本社会を苛んできたパワハラ体質が改善されるのは当然の流れだが、生産性向上のためにはリーダーシップの再定義が欠かせない>

宝塚音楽学校で「悪しき伝統」が見直されたという報道がありました。その伝統というのは、(1)先輩が普段利用する阪急電車に礼をする、(2)遠くの先輩に大声であいさつ、(3)先輩への返事は「はい」か「いいえ」に限定、(4)先輩の前では眉間にシワを寄せて口元を下げる、といった何とも一方的なもので、現代の基準で言えばパワハラ体質と言われても仕方がありません。見直しは当然と思います。

パワハラといえば、人気ドラマ『半沢直樹』が描き出す架空の銀行というのも、悪質なパワハラが横行する世界です。確かに2013年の第1シリーズでは、作品の全体を通して、パワハラ体質を抱えた日本社会への告発というトーンが明確でした。ただ、7年を経て制作された今期の第2シリーズでは、パワハラというのがやや過去形になってきたことを反映し、よりストーリーを掘り下げた作りになっているようです。

そうした点を踏まえますと、長い間この日本社会を苦しめてきたパワハラ体質や、その原点とも言えるブラック校則などが弱まってきたのは事実と思います。では、日本の組織はこれで風通しが良くなり、ようやく生産性の改善へと向かうのかというと、そう簡単には言えません。というのは、パワハラは禁止するだけでは不十分だからです。

必要なのは、リーダーシップの改善です。その1つは、リーダーの選び方です。リーダーシップとは技能であり、少なくとも技能のある人間だからリーダーという役割を与え、そのリーダーシップを発揮するための道具として権限を与えるというのが順序だと思います。

リーダーには管理スキルと専門スキルが必要

ところが、現在でも年功序列による人事や、転勤などの苦難を我慢したことや、販売成果を上げたことへの報奨として「リーダーシップの技能に欠ける人間に、自動的に権限を与える」という人事が残っています。これでは、会社にしても官庁にしても、組織内のモラルは向上しません。また、スキルのないリーダーは、人間関係に引きずられた判断をしたり、部下のノウハウを横取りするしかなく、結果的に組織の生産性は向上しないことになります。

リーダーとは機能であり、その機能を果たすには管理スキルと専門スキルという技能が必要であり、その技能のない人間に権限を与えてはいけないという組織の鉄則を、キチンと確立すべきと思います。

もう1つは、リーダーシップの再定義です。リーダーはその組織のパフォーマンスを最大にするのが使命であり、スポーツの監督であれば勝利が、営利企業の販売組織であれば顧客の満足度を高めて継続的に販売が成功する状態が目的です。

その点については変更する必要はないと思います。パワハラを禁じなくてはならないからといって、勝負に負けてもいいとか、製品が売れなくても良いということでは本末転倒だからです。

<関連記事:【2020米大統領選】「隠れトランプ」の行方、「隠れバイデン」の可能性
<関連記事:コンビニで外国人店員の方が歓迎されるのはなぜか?

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ大統領、イラン最高指導者との会談に前向き 

ワールド

EXCLUSIVE-ウクライナ和平案、米と欧州に溝

ビジネス

豊田織機が株式非公開化を検討、創業家が買収提案も=

ワールド

クリミアは「ロシアにとどまる」、トランプ氏が米誌に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 3
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 4
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 8
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 9
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story