コラム

菅政権の縦割り行政との戦い、「110番」はあくまで入り口

2020年09月17日(木)15時00分

日本の問題は、仮に巨大台風による壊滅的な豪雨被害が予想された場合に、法律や規則より上位の概念として「人命を最優先にする」という「コモンセンス(常識)」によって現実に合わせた判断をする習慣が弱いし、また責任をもってコモンセンスを発動するタイプの人間をリーダーに据える習慣もないということです。

そのような中で、悪しき事例を「110番」で摘発するだけで、組織は反省し改善を行うようになるかというと、それは難しいと思います。

必要なのは、幅広い議論です。改革に抵抗を示す勢力は多くの場合、悪に染まっているから反対しているのではありません。あくまで生活に根ざした利害や、古い価値観から良かれと思って、あるいは思考停止に陥って反対しているのです。ですが、その利害や価値観に配慮していては、全体のアウトプットが大きく傷つきます。だからといって、昭和や平成の時代のように何でも補償金で済ませる国力もありません。原理原則を掲げて、改革の正当性を訴えて世論の同意を取り付ける、そのためには透明な情報公開をベースとした幅広い議論が必要です。

その意味で、「110番」というのは手がかりにはなるかもしれませんが、それだけでは改革は動きません。原理原則を訴え続け、国難の中で行政の効率を確保していくというのは、大変な努力を要するテーマだと思います。

縦割り行政の廃止というのは、行政の効率化に過ぎず、それだけでは一人あたりGDPの退潮に歯止めはかかりません。ですが、日本式の組織でも変われる、本質に根ざした判断ができる、ということになれば、民間の生産性も戻ってくるのだと思います。その意味で、新政権のテーマに掲げた以上は、「110番」だけで終わらせず、本質的な行政の効率化に取り組まなければならないでしょう。

<関連記事:菅首相選出に国民はしらけムード、日本の統治体制は死に体だ
<関連記事:次期首相にのしかかる3つの難題──ポスト安倍の日本を待ち受ける未来
<関連記事:自民党総裁選に決定的に欠けているもの

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story