コラム

米野球界スーパースターのジーターが満票殿堂入りならず、では5年後のイチローは?

2020年01月23日(木)17時00分

もう1人は、エキスポズ(現ナショナルズ)やロッキーズの主力でその後は、カージナルスのリーグ優勝にも貢献したラリー・ウォーカー氏です。ジーター氏とは反対に、選考対象10年目という「後のない最後の年」に選出されています。得票も304票(76.6%)ということで滑り込みセーフでした。生涯記録も2160安打で、打者としてこのレベルでの殿堂入りは珍しいほうです。

ウォーカー氏の場合は、前年比で票が22%も伸びたことから、記者仲間による温情だという説、それから人柄が評価されたという説、あるいは大リーグでは少数派のカナダ人という点に敬意を表しての投票、などと色々なことが言われています。ここ数年は、薬物使用スキャンダルに関与したボンズ、クレメンスという「疑惑の大物」には入れたくない中で、「クリーンな好人物」には票が入るという傾向があり、そうした要素も後押ししたかもしれません。

それでは今年の投票傾向を受けて、2025年に有資格となるイチロー(鈴木一朗)氏の見通しを考えてみたいと思います。

「満票」の難しさ

まず可能性ですが、有資格の1年目での「一発殿堂入り」はほぼ100%間違いないと思います。現在リストに残っている人々、2021年以降に有資格となる人々の顔ぶれを見ても、メジャーで3000本を打ち、緻密な打撃と華麗な守備で2000年代のメジャーリーグを代表する選手だったイチロー氏の存在感は圧倒的です。「票が割れて75%に届かない」ということはないと思います。

問題は「満票」となるかです。イチロー氏のような野球というスポーツに緻密さを加えるという野球史に残る功績を挙げた選手は、満票がふさわしいと思うのですが、ジーター氏という超大物が「満票を逃した」ことは、その難しさをあらためて印象付けました。

つまり「超大物」でも、匿名票なので「入れない」という選択をする記者はいるだろうということです。ジーター氏の場合、マイアミのオーナーとしての批判があるのであれば、イチロー氏の場合は、シアトルの一部メディアなどで「安打数にこだわってチームプレーに徹しなかった」時期があるという批判はありましたし、それが殿堂入りの投票に反映される可能性はあります。

いずれにしても、ジーター氏がクーパーズタウンの伝説になった今、イチロー氏が殿堂入りする日を楽しみに待ちたいと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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