コラム

統計不正を追及する前に、そもそもなぜ日本の賃金は下がったのか?

2019年02月19日(火)17時30分

一方で、最終消費者向けの製品は景気変動があるので、「B2B」つまり企業向けビジネス向けの製品にシフトするという企業もありました。ですが、鉄道車両にしても、電力にしてもうまくいっていません。

日本の輸送用機器産業は、最初は自転車やバイク、船舶中心だったのが、四輪自動車にシフトして成功しました。ですが、その四輪自動車が「現地生産主体」になって海外に出ていった後は、もっと高付加価値の宇宙航空にシフトするべきでしたが、そうはなっていません。

その宇宙航空でも、そしてエレクトロニクスでも、かつての最終製品の製造メーカーの多くが部品産業に後退してしまっています。堅実なビジネスかもしれませんが、利幅は限られますし、何よりも発注者の経営姿勢に対して受身となります。

では、どうして負け続けているのかというと、構造的な理由があります。英語でビジネスのできるインフラがないことがまず指摘できます。そのために、アジアの金融センターの地位は、香港やシンガポールに奪われてしまいました。

いつまでも日本語の非効率な事務仕事を抱えて、しかもそれを電算化・省力化することができずにいる、そんなオフィスワークの生産性の問題もあると思います。今は、円安なので許されているものの、仮に少しでも円高になれば、多国籍企業の場合、日本での高コストのアドミ業務は切り捨てられる可能性があると思います。

コンピューター、特にソフトウエアの人材を積極的に育成しなかったという問題もあります。特殊な専門職として別会社や別の給与体系に移して冷遇してきた歴史も罪深いと思います。

日本の大企業は空前の利益を上げているというニュースもありますが、そのほとんどは海外市場での業績であり、最近は開発から生産、営業、販売すべて海外というビジネスも多くなっています。そうした場合は、日本の名前のついた企業であっても、カネは海外でグルグル回っているだけで、国内には還流しないのです。

そうした様々な構造的な問題のために、日本国内の賃金水準は低くなっています。そうした構造にメスを入れて、労働慣行を中心に国内の規制改革を行なって、生産性を向上するだけでなく、最先端の技術開発が国内でできる、全世界の消費市場に対して直接向き合うビジネスができるようにしなくてはなりません。

野党は、政府の統計問題を追及するヒマがあるのなら、そうした本質的な部分に斬り込んで、日本の給与が本当に上がるような改革を提案すべきです。それができない中では、消去法で自民党政権が続くのも仕方がないと言えます。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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