コラム

水道法・入管法改正、なぜ野党の批判には説得力がないのか

2018年12月06日(木)16時00分

老朽化した水道インフラが最大の問題 brazzo/iStock.

<水道法改正、入管法改正、それぞれの法案に対する野党の批判は原則論に終始し、現実と乖離してしまっている>

水道法と入管法の改正案が可決成立の段階となりました。水道法の場合は、水道事業の広域化、そして運営の民営化を認める改正、入管法の場合は目標34万人という新たな単純労働従事者を海外から呼び寄せるという内容です。

どちらも、十分な審議が尽くされたとは言い難いのが現状です。このままでは、法律が成立して実施される段階になって「ご存知ですか?」といった「政府広報」で多くの人々が、新しい現実を知らされる、そんな「いつものパターン」になる懸念を感じます。

いや、もしかすると、違うかもしれません。上水道の水質が劣化したり、個別の水道サービスが値上がりしたりする、あるいは目に見えないところで外国人労働者が多数働いていたりするような「新しい現実」は、全国一斉には発生しないでしょう。ならば、事前に幅広く知らせる必要はない、そんな考えに立つのであれば、今回の水道や移民に関する制度変更については「政府広報」もされないかもしれません。

そもそも、この「知らせない」という姿勢は今回の審議で一貫しています。良いことではありません。ですが、政府の立場からすれば、老朽化の進む全国の水道網が維持されるように道筋をつけることや、人手不足の中で倒産寸前の多くの中小企業に人材を回すことは、一刻を争う問題です。

ですから、「水道法改正に反対しそうな地方票」「入管法改正に反対しそうな高齢票」に強く支持されている自民党政権としては、自分の支持基盤を刺激しないように留意さえすれば、特に国民的な議論を喚起しなくても「可決成立まで持っていける」という判断をしているのだと思います。

これは、おかしなことです。十分な議論をしないまま大きな制度変更を行う、これは間違っています。これでは民主主義とは言えません。何故間違っているのかというと、「国民的合意のない制度」は、将来にわたって世論の支持がなく不安定になるからです。問題が水道と移民ですから、例えばフランスで起きたような暴動や、ドイツにおける移民排斥運動などが将来の日本で起きないとは限りません。こうした混乱を少しでも軽くするためにも、国民的合意の形成というのは急務です。

そこで出番となるのは野党です。こういう事態こそ、危機感を持って法案と政府を批判するのは、野党の役目だからです。

ところが、野党の批判には全く迫力がありません。与党に制度の修正を迫ったり、制度全体の代案を出すどころか、政権批判の声ですら世論に届いていないし、まして世論を動かすには至っていないのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story