コラム

選挙直前のユダヤ教徒へのヘイト犯罪、トランプはスルーする構え

2018年10月30日(火)19時30分

ピッツバーグの乱射事件に関してコメントするトランプ大統領 Alexander Drago-REUTERS

<右派への影響を考慮してか、ユダヤ教礼拝所への乱射事件については「責任がない」という姿勢でトランプは通そうとしている>

米中間選挙の投票日が迫るなかで、恐ろしい事件が続いています。フロリダで容疑者が逮捕された連続小包爆弾送付事件が全米を震撼させたのもつかのも間、27日土曜にはペンシルベニア州ピッツバーグのユダヤ教礼拝所で乱射事件が発生し、11人が殺害されました。

トランプ大統領は、爆弾事件の容疑者が熱狂的なトランプ信者だったこともあって、容疑者逮捕後に「国民の和解を」というメッセージを出しました。ところが、ユダヤ教徒への乱射事件については、それとは異なった対応を取っています。

まず、事件の第一報に対しては「礼拝所が武装していれば防げた」という、まるでNRA(全米ライフル協会)のような発言をしています。また悲惨な事件だったにもかかわらず、直後には野球観戦をしながら作戦批評をするという意味不明の行動も見せています。

どうやら、大統領と周囲は、この第二の事件に関しては「大統領には責任がない」という姿勢でスルーしようという構えに見えます。少なくとも、事件の2日後、週明けの29日までの状況はそうです。

例えば、ホワイトハウスのサンダース報道官は、「乱射事件については大統領や、中には私にも責任があるというメディアがあるが、それこそ『フェイクニュース』であって絶対に許しがたい」と述べ、いつもは冷静な口調の彼女がかなり激しい調子でまくし立てていました。

これに対して、事件の舞台となったピッツバーグの市長や、標的になった礼拝所の長老(ラビ)などは「大統領が白人至上主義を改めて批判し、国民の和解を説くようなコメントを出さない限り、ピッツバーグとしては歓迎しない」という声明を出しています。また、同様の趣旨についてユダヤ系の人々3万人の署名も集まっていると言われています。ですが、大統領夫妻は、そのようなコメントを出すことなく、30日(火)にはピッツバーグを訪問するとしています。

さらに言えば、この爆弾事件と乱射事件は、いずれもホンジュラスを出発した「移民キャラバン」へのヘイト感情が決定的な導火線になっています。小包爆弾の場合は、「民主党がキャラバンを支援している」とか「投資家のジョージ・ソロスがキャラバンに資金を提供している」というデマを信じて、民主党の政治家やソロスに爆弾を送りつけている点が指摘できます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

グリーンランドに「フリーダムシティ」構想、米ハイテ

ワールド

焦点:「化粧品と性玩具」の小包が連続爆発、欧州襲う

ワールド

米とウクライナ、鉱物資源アクセス巡り協議 打開困難

ビジネス

米国株式市場=反発、ダウ619ドル高 波乱続くとの
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税大戦争
特集:トランプ関税大戦争
2025年4月15日号(4/ 8発売)

同盟国も敵対国もお構いなし。トランプ版「ガイアツ」は世界恐慌を招くのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    凍える夜、ひとりで女性の家に現れた犬...見えた「助けを求める目」とその結末
  • 2
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 5
    米ステルス戦闘機とロシア軍用機2機が「超近接飛行」…
  • 6
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク…
  • 7
    ノーベル経済学者すら「愚挙」と断じるトランプ関税.…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 10
    逃げる犬をしつこく追い回す男...しかしその「理由」…
  • 1
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    凍える夜、ひとりで女性の家に現れた犬...見えた「助…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 9
    「やっぱり忘れてなかった」6カ月ぶりの再会に、犬が…
  • 10
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 3
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story