コラム

米中間選挙前に飛び出した、最高裁判事候補キャバノーの性的スキャンダル

2018年09月25日(火)17時30分

これに対して、民主党の側には危機感がありました。このような保守系の判事が誕生して憲法判断の判例、例えば「中絶合法化」や「同性婚合憲判断」などをひっくり返されては大変だという思いです。また、上院における承認プロセスを通じて、キャバノー判事の承認をストップすることができれば、中間選挙へ向けた勢いがつく、そんな考えもあるようです。

そんな中、2つの疑惑が浮上しました。1つは、キャバノー判事が高校生時代に、もう1人の男性とともに当時15歳だった女性を押し倒してワイセツな行為をしようとしたというもので、これは民主党のファインスタイン上院議員のオフィスに告発があったことから明るみになりました。被害を訴えているのは、パロアルト大学の教授であるクリスティーン・フォードという女性です。

もう1つは、雑誌「ニューヨーカー」のスクープで、これはイエール大学時代のキャバノー判事が、下半身を露出して女性に嫌がらせをしたという生々しい内容です。判事自身は、この2つの疑惑について、全面否定の構えです。また、トランプ大統領は、フォード氏の告発状について「悪しきリベラル政治家の作文」と、これを一蹴するようなことを言っています。

キャバノー判事の過去の判決文などを見ますと、保守的であるものの、憲法判断をひっくり返すほどの過激な偏向は見られません。また、最高裁の場合、実際に歴史の歯車を逆転させるような深刻な判例変更が起きそうになった場合には、ロバーツ長官が「歴史の審判」を意識してストップをかける可能性もあると思います。

ですから、ここまで露骨な「30年以上前の過去の暴露」には、少々「やり過ぎ感」がないわけではありません。ですが、この2018年秋は、中間選挙を目前にした与野党の激しい政局が渦巻いています。

ですから、キャバノー判事の指名承認プロセスの結果は、中間選挙へ向けた民主・共和両党の勢いに影響してしまう、これはどうしても否定できない要素になっています。そして今週は、議会の公聴会で告発者のフォード氏とキャバノー判事が「直接対決」する見通しになっています。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story