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トランプ政権「もう一つの事実」に新バージョン登場
NY市長時代のジュリアーニは見事なテロ対応で名を馳せたが Joshua Roberts/REUTERS
<世界を驚愕させたコンウェイ大統領顧問の「もう一つの事実」発言から1年半、ウソを事実と強弁するトランプ政権の新たなフレーズが誕生した>
トランプ政権の広報スタイルを象徴する言葉として「もう一つの事実(alternative facts)」というフレーズは大変に有名になりました。この言葉が飛び出したのは、トランプ大統領が就任した直後の2017年1月22日のことで、NBCテレビ日曜朝の政治討論番組『ミート・ザ・プレス』の司会者チャック・トッドが、ホワイトハウス顧問のケリーアン・コンウェイから引き出したセリフです。
この台詞ですが、どんな文脈で飛び出したのかというと、トランプ大統領の就任式に詰めかけた群衆の数について、ホワイトハウスの報道官(当時)であったショーン・スパイサーが、「今回の就任式の参加人数は、過去最大だった」として、これを否定した各メディアと完全に「対決状態」となったことを受けてのものでした。
コンウェイは、スパイサー報道官の「過去最大」というのは、「もう一つの事実」だと表現して全世界をアッと言わせたのでした。もちろん、司会者のトッドは「もう一つの事実というのは、事実ではないですよ。それは単純に『虚偽』でしょう("Alternative facts aren't facts, they are falsehoods.")」と返答したのですが、そんな正論が通る相手ではありませんでした。
このコンウェイ発言は、大きな問題を含んでいます。それは、この「もう一つの真実」発言を、コアの支持者たちは理解して支持したということです。つまり「2017年1月の就任式に集まった参加者数は2009年のオバマより実際は少なかったかもしれないが、自分たちの支持するホワイトハウスが過去最大だったという『もう一つの真実』を主張するのなら、もちろんそれを支持する」ということです。
これによって政治の根幹にあるべき「事実をめぐる言葉への信頼」というインフラが崩壊してしまいました。例えば、1973~74年にかけて発生したウォーターゲート事件で、ニクソン大統領は「自分は一切事件には関わっていない」という強弁を続けたのですが、それが虚偽だと露見すると、世論は衝撃と共にニクソンを見捨てたことが想起されます。
ところがトランプの場合は、同じように事実に反することを言っても、ニクソンとは大違いなのです。反対派は「トランプが言うのだから嘘に決まっている」と言うだけですが、一方で、熱心な支持者も「もう一つの真実を言っている」つまりは事実ではないことを分かって発言を支持しているという構図があるからです。
ですから、トランプの「発言が虚偽」であることは、ケースにもよりますが、大統領一流の「過激トーク」に関しては、事実でないことは支持者も反対派も全員がわかっているのです。ですから、大統領に対して発言の事実関係を「これ以上追及のしようがない」という妙なことになっています。言葉への信頼が崩れているというのは、そういうことです。
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