コラム

来日するオバマに期待する「日韓合意」の後始末

2018年03月06日(火)19時10分

また、オバマが2009年以来主張してきた「核なき世界」という理想論についても、この思想が最終的に「広島献花」に結びついたことを考えると、日本にとっては極めて縁の深い思想だと思います。仮に安倍=オバマ会談でこの話題が出るなり、あるいはオバマが日本での講演でこの思想に触れることがあったら、それはそれで立派なことと思います。

この「核なき世界」という考え方は、現トランプ政権の政治姿勢と矛盾することはありません。トランプにしても、大統領になってから「究極の理想は核なき世界」だということを述べています。もっとも、その発言は「その前に現状に関しては核弾頭の更新をする」という現実論に続くのですが、それはそれとして、別にオバマが日本で「核なき世界」を主張したとして、それが現在の日米関係を考える上で問題になるとは思えません。

むしろ、多くの国でそうであるように、「5大国を含む核兵器の禁止」か、「5大国独占を当面認めた上での拡散阻止」か、という論争があるわけですが、オバマとの会談などを契機に、日本政府が「不拡散の努力」をしながらも「核禁条約も批准する」という判断に、さらに少しでも近づけば良いと思います。仮にそうであっても、トランプ体制のアメリカとの関係には影響はないでしょう。

一つだけ問題があるとしたら、日韓関係です。オバマが主導した日韓合意については、韓国の政変によって政治力学が変化した結果、行き詰まった格好となっています。この状態を放置して日韓離反、米韓離反というモメンタムがさらに拡大するようでは東アジアの安定を損なう流れになってしまいます。

現状としては、韓国の文政権は「完全な解決のためには日本から被害者への心を尽くした謝罪が必要」などと外交上、不可解な主張をしています。これでは日本側としては関係を改善する知恵も努力も出しようがありません。

そう考えると、「当時の仕掛け人」であるオバマに事態を打開するだけの知恵を期待したくなります。仮に妙案が出て、日米韓の結束が少しでも改善すれば、安全保障上の安定に寄与するわけですし、トランプ政権としても歓迎できる方向性になると思います。相互献花外交とは違って、日韓合意については失敗しているのですから、オバマには当事者として何らかの努力を期待したいと思います。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story