コラム

小池代表の衆院選最大の誤算とは?

2017年10月26日(木)15時30分

希望の党は当初に期待されていたような「旋風」を起こすことはできなかった Issei Kato-REUTERS

<「希望の党」大敗の理由は小池代表の「排除」発言だけではない。東京都の有権者はもともと都議会自民党と国政の自民党は別物と考えている>

今回の衆院選の結果については、色々な分析が可能ですが、何よりも意外だったのは、事前に「旋風」を引き起こすかと思われた「希望の党」が失速したことです。この「失速」については、小池百合子代表自身の口からも「発言が人を傷つけた」ことが契機という反省の弁があったように、「排除発言」がきっかけという解説が多いようです。

ですが、それだけでは十分な説明にはなりません。東京における「小選挙区はほぼ全滅(東京21区だけで勝利)」というのは、単に「排除の論理」への反発だけで起きたとは思えません。

例えば、つい3カ月前の東京都議会選挙の結果を考えてみます。この時には、小池都知事率いる「都民ファーストの会」は49議席を獲得して第1党に躍進、一方で自民党は34議席も減らして、公明党と同じ23議席になっています。この時の「都民ファーストの会」の得票率は33.68%でしたが、今回衆院選での東京における希望の党の比例代表の得票率は17.4%。つまり半減しているわけです。この大きな差は「排除発言への反発」とか、「党の閉鎖体質を批判した音喜多発言」だけでは説明はつきません。

一つ、小池代表に大きな誤算があったとしたら、東京の有権者は「都議会自民党」と「国政の自民党」を全く別のものと考えている、この点を見落としていたと指摘できます。

まず、都議会の自民党に関しては、東京では昔から色々な問題があったわけです。その発端としては、例えば1965年の「都議会黒い霧事件」があります。議長交際費などを財源に、都議会の中で議長人事をめぐるワイロが飛び交ったという大スキャンダルで、議員13人が贈収賄で有罪となり都議会は解散に追い込まれました。この時から、都議選は統一地方選のサイクルから外れています。

その後も、議長交際費問題やカラ出張問題では、1971~72年に疑惑が発生し、議長が交代しています。その後は、バブル経済、色々な博覧会問題や、開発プロジェクトの問題、そしてそれ以降の東京一極集中、さらには五輪がらみの利権など、様々な論点や疑惑があり、都民の都議会自民党に対する眼は非常に厳しいものがあるのです。

その「厳しい眼」というのは、つまり都の有権者は「都議会自民党」という存在に、「地方政治の論理」を見ているからです。消費者ではなく供給側の論理が優先されるとか、住民の利害ではなく商店街や不動産ディベロッパーの利害で動く、その上で不明朗な決定過程で大きなカネが動く世界、そんなイメージで見ているわけです。

豊洲の問題にしても、地下水がどうという具体的な問題よりも、そうしたハコモノの建設が一部の人々によって決定され、そこに巨額な税金が投入されるという構造に対して、都民は疑問を持ったわけで、この問題をめぐる小池都知事の言動は、そうした都民の「長年積み重なった不信の深層心理」を意識してのものだったと言えます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国軍が東シナ海で実弾射撃訓練、空母も参加 台湾に

ビジネス

再送-EQT、日本の不動産部門責任者にKJRM幹部

ビジネス

独プラント・設備受注、2月は前年比+8% 予想外の

ビジネス

イオン、米国産と国産のブレンド米を販売へ 10日ご
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story