コラム

就任から9カ月、トランプ政権の現在地

2017年10月17日(火)15時20分

大統領を取り巻く騒動といえば、「ティラーソン国務長官と大統領の確執」という問題があります。発端は、大統領が「核弾頭を冷戦期のように10倍増やさせよう」と演説したら、直後に国務長官がヒソヒソ話として、「アイツは能力が足りないんじゃないか」みたいなことを言ったとされています。その前後には国務長官の辞任説もありました。また北朝鮮との「対話」を進める国務長官に対して、「対話は不要だ」という大統領の発言が確執だと言われて騒ぎになったこともありました。

この「能力うんぬん」事件に関しては、大統領が「国務長官が自分をバカにするのなら、IQテストをやって能力を競うことにしよう」と言ってみたり、自分が「核弾頭を10倍に」と言ったというのはNBCが作った「フェイクニュース」だから、NBCの放送免許を取り上げろなどと言ってみたり、ドタバタ劇に終始しています。ちなみに、IQテストも、免許停止もその後は話題にもなっていません。

与党の共和党との関係も良くありません。問題は税制改革で、トランプ案というのは「当面は財政赤字を拡大」するかもしれないが、大減税を行って景気をさらに浮揚しようというものです。これは基本的に「茶会(ティーパーティー)運動」に見られるように、財政規律に敏感な共和党としては、そう簡単に丸呑みはできないわけです。

今週16日には、大統領はその議会共和党のマコネル上院院内総務と昼食会を行った後、共同会見に臨んで「関係の修復」をアピールしていましたが、マコネル議員の表情は固く、ポケットに手を突っ込んだまま喋っていたことなどから、確執は消えていないという見方があります。

その一方で、政権中枢をクビになったはずのスティーブン・バノン元主任分析官は、在野の立場で勝手気ままに発言をしており、「今こそ、共和党主流派との全面戦争の時だ」などと言って、ホワイトハウスを煽っている始末です。

この3つのストーリーが、とりあえず「トランプ政権の現在」を象徴しています。この中で、国務長官との確執に関しては少なくとも「支持者向けのホンネとプロの行う外交」を使い分けているという見方が可能ですし、東アジア歴訪を発表したということ自体が、北朝鮮情勢をめぐる具体的な外交方針が「ある」ことの証明になっていると言えます。ですが、被災地を怒らせたり、共和党とケンカをしたりという方は、出口の見えない話になっています。

その意味で、11月のアジア歴訪では大統領としては何としても成果を出して、ポイントを稼ぎたい、そんな機会と考えていると見るのが常識的だと思います。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ガザ停戦巡りイスラエル側が新提案、ハマスは受け入れ

ワールド

イラン外相がロシア訪問へ、米国との次回核協議控え

ビジネス

米国株式市場=続伸、ダウ312ドル高 スマホなど関

ワールド

米財務長官、中国との貿易協定に期待 関税は「冗談で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトランプ関税ではなく、習近平の「失策」
  • 3
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができているのは「米国でなく中国」である理由
  • 4
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    シャーロット王女と「親友」の絶妙な距離感が話題に.…
  • 7
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 8
    NASAが監視する直径150メートル超えの「潜在的に危険…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    米ステルス戦闘機とロシア軍用機2機が「超近接飛行」…
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 4
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 7
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 8
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 9
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 10
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story