コラム

消費税引き上げ問題は、政策の対立軸になりうるのか?

2017年09月08日(金)15時50分

確かにこの問題は、解散という形で民意を問う場合、相当に意識されるのはわかります。勢いのない野党が、仮に「税率アップ先延ばし」とかあるいは「税率引き下げ」を提案してきたとしても、自民党は全体的に政権担当能力をアピールできれば負けない、であるならば「予定通りアップ」を公約に盛り込んで固めてしまおうという戦略は、善し悪しは別として理解できるからです。

これに加えて、かつて民主党政権を支持していた「財政規律派の世論」、つまり「個人や企業として余力があるので、中長期的な財政を心配できる」層、要するに都市型の富裕な無党派層を、今度は自民党として取り込めるかもしれない、石破、岸田の両氏にはそんな計算もあるのかもしれません。

ですが、2017年の現在、この問題は対立軸を作って民意を問うべき対象として、果たして適当と言えるでしょうか?

そもそも、三党合意を踏みにじる形で2度、税率アップを先送りした安倍政権の判断は「単なる嫌なことの先送り」だったのでしょうか?

これらの問いに、現時点で明確な解答を出すのは困難です。それは、この問題をイデオロギー論争として扱うことに疑問が生じるためです。

【参考記事】日本の核武装は、なぜ非現実的なのか

「中長期的な理想論では財政規律を目指して増税、短期的なサバイバル優先や感情論からは増税反対」

「保守的な国家観からは財政規律を優先して増税、庶民的あるいは左派的な価値観からは増税反対」

という対立軸が一般的にはあるようですが、果たしてそんな対立に意味があるのかということです。さらに、

「将来の社会保障が気になる現役世代は財政規律、年金生活で消費税のインパクトが強い一方で遠い将来への関心が薄い高齢世代は増税反対」

というような構図で世代間対立を煽っても、それで民意による合意形成ができるとも思えません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=続伸、ダウ312ドル高 スマホなど関

ワールド

米財務長官、中国との貿易協定に期待 関税は「冗談で

ワールド

米政権、今秋に次期FRB議長候補者の面接を開始=財

ビジネス

NY外為市場=ドル、対ユーロで3年ぶり安値近辺 対
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトランプ関税ではなく、習近平の「失策」
  • 3
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができているのは「米国でなく中国」である理由
  • 4
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    シャーロット王女と「親友」の絶妙な距離感が話題に.…
  • 7
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 8
    NASAが監視する直径150メートル超えの「潜在的に危険…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    米ステルス戦闘機とロシア軍用機2機が「超近接飛行」…
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 4
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 7
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 8
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 9
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 10
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story