コラム

ボーイスカウト大会でオバマを非難したトランプに批判が殺到

2017年08月03日(木)16時40分

もう1つは、何故オバマ大統領が「ボーイスカウト・ジャンボリー」に参加しなかったのかという問題です。それは、特にオバマ政権時代には、ボーイスカウト組織への同性愛者の参加という問題が生じていたからでした。当初は「参加禁止」であったものを、大統領も積極的に影響力行使をする中で、2013年にはメンバーとして参加が可能になり、2015年には同性愛の指導者の参加も解禁されることとなりました。オバマ大統領は、結局この自由化を待つ中で前回2013年の大会には参加できなかったのです。

では、どうしてトランプ大統領は、少年たちの前で「政治的暴言」を行うという醜態を晒してしまったのか――そこには3つの理由があると思われます。

1つは、この7月24日というのは、わずか10日余りで解任されたアンソニー・スカラムッチ前広報部長の短い在任期間中に当たります。スカラムッチは「ホワイトハウス内の情報統制」を目指す一方で「ツイッターなど大統領の自由な発言は尊重する」という姿勢を取っていました。その結果として、演説原稿のチェックが甘くなった可能性はあると思います。

2つ目は、大統領の側に「ボーイスカウト大会」しかも「ウェストバージニア州のキャンプ場」というロケーションから、聴衆は「保守系で、自分の支持者がほとんど」だという錯覚があったのかもしれません。場所は毎回ここと決まっているだけの話で、そもそも、大会自体は全国からの参加です。また保守系ではなく、完全に超党派の団体なのですが、そこを誤解したという可能性です。

3つ目は、少し前に「軍からトランスジェンダーの兵士を追放する」という暴言ツイートを行った大統領としては、「オバマの圧力」で「ボーイスカウト組織が同性愛者を受け入れた」のに「反対」すれば、保守派の人々から喝采を浴びると考えた可能性があります。ですが、全国大会の席上でそんなことを言えば大問題になるので、大会事務局か、あるいは自分の側近に「それだけは止めてくれ」と言われ、結果的に変則的なオバマ批判になったということもあり得ます。

【参考記事】トランプ政権、就任後半年間の意外な高評価

ところが、この「事件」には奇妙な後日談があります。トランプ大統領は、ウォールストリート・ジャーナル紙のインタビューに応えて、問題の「ボーイスカウト・ジャンボリー」での演説について、ボーイスカウト連盟の幹部から「ボーイスカウトの歴史上最高の演説だった」という称賛の電話があったと話したのです。

AP電によれば、ボーイスカウト連盟は「そんな電話はしていない」と言っています。そもそも、連盟としては演説の3日後に「大会の中で政治的なスピーチが起きてしまった」ことを謝罪しているわけですから、大統領に称賛の電話をかけるはずがないのです。

現在、「ホワイトハウスはカオス状態」と言われています。それは、人材がコロコロ出入りするとか、内部からの「リーク」が止められないという問題が中心ですが、それだけでなく、肝心の大統領の言動についても、ここへ来て以前よりさらに「粗さ」が目立ってきたことは指摘できます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=続伸、ダウ312ドル高 スマホなど関

ワールド

米財務長官、中国との貿易協定に期待 関税は「冗談で

ワールド

米政権、今秋に次期FRB議長候補者の面接を開始=財

ビジネス

NY外為市場=ドル、対ユーロで3年ぶり安値近辺 対
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトランプ関税ではなく、習近平の「失策」
  • 3
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができているのは「米国でなく中国」である理由
  • 4
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    シャーロット王女と「親友」の絶妙な距離感が話題に.…
  • 7
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 8
    NASAが監視する直径150メートル超えの「潜在的に危険…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    米ステルス戦闘機とロシア軍用機2機が「超近接飛行」…
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 4
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 7
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 8
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 9
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 10
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story