コラム

共謀罪法案、国会論戦で進まない対象犯罪の精査

2017年06月08日(木)15時40分

共謀罪は現法案で可決成立という流れも見えてきているが Tapsiful-iStock.

<共謀罪法案の国会審議で277の対象犯罪に関する具体的な議論が盛り上がらない。偽証や背任など、共謀罪の対象としては意味がない、または捜査権濫用のおそれが高いものについては修正が必要なのでは>

共謀罪法案の審議については、国会での論戦が盛り上がらない中で、政治的な駆け引きの中で「現状案で可決成立へ」という流れが見え隠れしています。ですが、277という対象犯罪の中には、明らかに「共謀段階で罪にする」ことが意味を成さない部分もあるわけで、今からでも遅くないので、実務的な修正はできないものでしょうか?

具体例として2つ挙げてみたいと思います。

1つは「偽証」という項目です。偽証というのは、法廷において明らかにされるべき真実を歪める行為ですから、確かに起きないに越したことはありません。また、偽証がまかり通ることで、明らかに重大な犯罪をやって、また再犯の可能性のある人物が堂々と無罪になって社会に出てくるというのは問題です。

そう考えれば、偽証という「悪事」を防止することができれば、やった方が良いように思われるかもしれません。ですが、偽証の共謀を犯罪とするのは、やはり無理があります。

まず、偽証の共謀が起きるとすれば、証人と弁護人の相談の中で起きるケースがほとんどだと思います。証人が純粋な第三者ではなく、被疑者との利害関係があって、被疑者を「かばいたい」とか、あるいは逆に「陥れたい」という動機を持っている場合、そうでなくても証言の結果として証人自身に不利益ないし、利益が発生する場合はあると考えられます。

【参考記事】共謀が罪なら、忖度も罪なのか?

純粋に第三者ではない証人の場合、どこまで話すか、話さないか、どういう言い方をするのか、プロである弁護士と相談して決めるでしょうし、その際には「偽証罪にならない範囲」というのが一つの基準になると思います。ですから、Aという証言をしたら偽証になるが、Bという言い方なら大丈夫だろうというような会話がされることは十分にあるし、そもそも可能性のすべてについて検討するのは当たり前です。

ですが、仮に共謀が罪になるのであれば、Aという証言を検討した部分だけを盗聴した音声とか、Aだけを検討していたという関係者の証言で、この証人と弁護士を逮捕できることになります。一番の問題は、この種の捜査が濫用されれば、「ある証人には法廷で証言をさせない」という対策が出てくることです。

そもそも、法廷での証言というのは、その元の事件があって、その捜査が進んでいるわけですから、検察側として仮に偽証が出てきたとして、十分な証拠を持っていれば反論が可能なわけです。偽証が発生したとしても、あくまで、その事件の捜査の延長で処理すればいいし、仮に偽証と認定する十分な情報を持っているのなら、偽証させて立件すればいいはずです。偽証の共謀だけで罪にできるという条項は、重大犯罪の抑止にならず、濫用の危険だけが残る可能性を感じます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story