コラム

共和党が議会を握っても、オバマケアは廃止できない?

2017年01月05日(木)15時30分

 ですが、いくら「憎い政策を廃止」すると言っても、「深刻な疾病を抱えた人は保険加入から排除する」とか「自営業や無職の人は無保険に戻す」といった不利益変更は人命に関わります。法廷闘争に持ち込まれたら、莫大なカネがかかる可能性があります。また、オバマケアによって新たな医療サービスが拡大し、潤っている業界、例えば電子カルテの関連産業などは「廃止」になれば困るわけで、何らかの補償が必要になるかもしれません。

 ということは、現実的には廃止は難しいのです。トランプ氏は、その辺りを見越して「オバマケアの責任はあくまで民主党にある」のであって、このまま「批判だけを続けて2年後の中間選挙で民主党に大ダメージを負わせよう」という戦術を匂わせています。つまり、本当に廃止してしまって、不利益変更を被った人の反発心が共和党に向かうような事態は、選挙での逆風を招くので得策ではないというわけです。

 そんなわけで、大統領と議会を押さえても、共和党として「オバマケア廃止」は難しいというのが現実なのです。そして、この問題は「小さな政府論」の議会共和党と、「実は大きな政府論でもある」トランプ政権の間の相違という、2017年以降のアメリカ政治が抱える本質的な矛盾を象徴していくことになるかもしれません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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