コラム

共和党が議会を握っても、オバマケアは廃止できない?

2017年01月05日(木)15時30分

Jonathan Ernst-REUTERS

<トランプ政権誕生と同時に共和党が議会多数派となってねじれも解消されることから、早速共和党からオバマケアの廃止法案が提案された。しかしトランプと共和党の思惑にはズレがあり、現実的に廃止は困難>(写真:昨年秋の同時選挙で共和党は上下両院で多数派となったが)

 今週3日、トランプ新大統領の就任式を17日後に控えたワシントンでは、いち早く新議会が招集されました。この新議会(第115回議会)は、上院の3分の1と下院の全員が、昨年11月に大統領選と同時に行われた選挙で当選した議員で構成されています。

 今回は、共和党は上院でも過半数を奪取しているので、ホワイトハウスに加えて、上下両院もコントロールすることになります。つまり「ねじれ」は解消され、共和党としての政策は通しやすい状況となりました。

 そこで、当然のように登場したのが「オバマケア廃止」法案です。オバマケアとは、2008年の選挙戦でオバマ大統領が公約として掲げて当選し、09~10年にかけて議会との大論争の末に可決成立した「医療保険改革」法案です。

 正式名称は「アフォーダブル・ケア法(ACA)」つまり「手の届く医療法」で、これによって、従来は非現実的な価格だった個人加入する医療保険の保険料を「手の届く」水準にすると同時に、「重病に罹患している」というような理由では保険加入は拒否できないとか、親の医療保険の被保険者になれる年齢を26歳まで引き上げるといった「改革」が実現しました。

【参考記事】撤廃寸前のオバマケアに加入者殺到の怪

 共和党は強硬に反対していましたし、成立後の選挙では何度も何度も「オバマケア廃止」を公約に掲げています。また、議会の主導権を確保する中で、「オバマケア廃止法」を、最後は議会として可決するところまで持って行ったこともありますが、その際にはオバマ大統領が拒否権を発動をして廃止を回避しています。

 そして、今回2016年11月の選挙では、トランプ氏が強く「オバマケア廃止」を主張して当選、しかも上下両院をコントロールしたということで、「今度こそ廃止が実現」する、そんな意気込みで廃止法が提案されたのは事実です。

 ところが、提案はされたのですが、共和党としては今ひとつ意気が上がっていません。それどころか、廃止法の可決は難しいだろうとか、2年あるいは4年はかかりそうだというような「いきなり弱腰」の声が出てきているのです。

 何故かというと、大きな2つの問題があるからです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

景気判断「緩やかに回復」維持、物価高継続の影響など

ワールド

9月改定景気動向指数、114.6で速報値と変わらず

ビジネス

利上げで逆ザヤ発生、国債評価損32.8兆円と過去最

ワールド

韓国与党、対米投資資金3500億ドル確保へ 基金設
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story