コラム

トランプ最大のアキレス腱「利益相反」問題に解決策はあるのか

2016年12月22日(木)15時40分

 トランプ本人は、当初は(4)を選択すると言っていました。特に選挙戦の最中は、ビジネスに関する自分の後継者は長女のイヴァンカ氏だと明言していたのです。ところが、そのイヴァンカ氏と夫のジャレッド・クシュナー氏は、11月にトランプ氏が当選して以来、「政権移行チーム」に深く関与し始めました。

 11月17日に、日本の安倍首相がトランプタワーを訪れて次期大統領と会談した際に、イヴァンカ夫妻が同席したことで、「ビジネスを承継しつつ、政権の補佐役をするのであれば利益相反になる」という批判を受けたのはこのためです。

 そこでトランプは、「イヴァンカ夫妻は政権に不可欠なブレーン」なので、今度は長男のドン・ジュニア氏と、次男のエリック氏にビジネスを承継するという「代替案」を出してきました。現時点ではこの案からまだ進んでいません。

 一部の報道では、(3)の「ハーフ・ブラインド・トラスト案」が検討されているということですが、これでは不十分でしょう。(2)でも不完全であって、少なくとも合衆国大統領になるのであれば(1)の全株換金という選択しかないはずです。

【参考記事】次期米国防長官の異名を「狂犬」にした日本メディアの誤訳

 この問題は、迅速な解決が必要です。例えば、報道された限りでも「ワシントンDCのトランプ系列のホテルが、次期大統領の威光を利用してクウェート大使館のパーティーを誘致しようと猛烈な営業をかけた」とか「次期大統領が台湾の蔡英文総統と電話会談した際には、台湾でトランプ系の不動産開発案件が進んでいた」などという話がゾロゾロ出てきています。

 メディアだけでなく、民主党側も「大統領罷免に向けて材料を仕込んでいる」そうですし、そもそも、こんなに「モタモタ」していては政権の求心力に傷がつきます。

 すでに当選から1カ月を経過して、まだ決断できていないということは、私利私欲とか、事業への執着ということだけでは「ない」何かがあると考えざるを得ません。

 ちなみに、このような経緯で持ち株を処分した際には、巨額の「非課税恩典」があるので、通常は本人が大きな損をしないような制度になっています。それにも関わらず判断できないのなら、何か理由があるという疑念を持たれても仕方ないでしょう。

 一つの仮説として、「持ち株が売れない」事情があるのかもしれません。どういうことかと言うと、個人経営で進めてきた中で「客観的な資産評価をするとマイナス」になる、つまり資産の整理をすると企業も個人も破産してしまうという可能性です。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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