コラム

東京五輪の観戦客には中継映像の「おもてなし」を

2016年08月23日(火)17時00分

 そんなわけで、私は五輪の放映権というのは、ネットも含めて「世界に広がったその国のサポーター」には、「その国の言語でその国の解説をつけた中継を見る権利」を広範に認めるべきだと思っています。ですが、それはまた別の機会に議論するとして、大変に気になるのは2020年の東京五輪の応援に来る外国人観戦客が「自分がチケットを買っていない試合をテレビやストリーミングで見られるのか?」という問題です。

 もちろん、ホテルにしても「民泊」にしても一応テレビはあるでしょう。ですが、そのテレビがやっている五輪の中継映像は「日本語で、日本選手ばかりを応援した」編成になっているはずです。

 例えば、ブラジルからの観客が「ポルトガル語で、ブラジル選手にフォーカスした中継映像を見たい」と思っても、そんなものはないし、ネットのストリーミングに関しても、自国のポルトガル語解説のついたサイトへのアクセスは「地域」で遮断されて無理なのではないかと思います。

【参考記事】「ドーピング」に首まで浸かった中国という国家

 例えば英語圏から来た観光客が、五輪期間中に多くの競技の中継映像を見たいと思っても、自国のストリーミングにはアクセスできず、日本のローカルの中継では日本人選手だけがクローズアップされているという「不便」を感じることになるでしょう。

 これには五輪放映権という巨額なカネが絡む難しさがあり、またすでに契約の概要は締結されていると思うので、出来ることは限られていると思います。ですが、何らかの「おもてなし」ができないものでしょうか。

 例えば、少なくとも英語で簡単な解説のついた「来日観戦客用」のライブ+アーカイブのストリーミング映像提供サイトを、日本国内でアクセス可能にしておくとか、そこに世界各国のアナウンス音声が引っ張ってこられる仕組みを作るとか、何か工夫はできないでしょうか。

 このままでは、せっかく高いチケットを買って東京に観戦に来ても、自分が会場で観戦した競技以外は、日本の中継映像をホテルのテレビで見るぐらいしかできないわけで、その他は情報としてネットで順位やタイムの記録を見る、ニュースのエピソードとして新聞的な感覚で読んで知る「だけ」になりかねません。

 難しさがあるのは分かりますが、この現状は改善するべきだと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低

ビジネス

ロイターネクスト:為替介入はまれな状況でのみ容認=

ビジネス

ECB、適時かつ小幅な利下げ必要=イタリア中銀総裁

ビジネス

トヨタ、米インディアナ工場に14億ドル投資 EV生
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story