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オバマ広島訪問をアメリカはどう受け止めたか
もちろん、スピーチは「さわり」だけでした。ですが、冒頭の「死が空から落とされた」という重苦しい一節も、被爆者を代表して参列した坪井直氏の「人間というのは素晴らしい」と思わせる笑顔と真剣な眼差し、そして同じく被爆者の森重昭氏と大統領の抱擁のシーンも、しっかり紹介されました。
レポーターは、ホワイトハウス番の大物ではなく、長年国際部だったロン・アレンという地味なベテランでしたが、メリハリのあるナレーションをつけた立派なレポートでした。
おそらくNBCなど各局は、一体どんな「絵」が日本から飛び込んでくるのか、事前にはよく把握していなかったと思います。結果的に大統領の見事なスピーチがあり、そして歴史的な被爆者代表との交流の映像が飛び込んできたのを受けて、2時間の間に急いで編集したのでしょう。
ただNBCは、「反対派」をまったく意識していないわけではなかったようです。この日の番組の作りは、30日の「メモリアルデー」を祝うコンセプトになっており、スタジオの屋外、つまりニューヨークのロックフェラー・センターの前に作られた特設ステージに、5軍(陸軍、海軍、空軍、海兵隊、沿岸警備隊)の若い兵士たちを整列させ、この「オバマの広島訪問」のニュースが厳粛に伝えられました。
【参考記事】パックンが広島で考えたこと
結果的に、そのメッセージは静かに、アメリカの全土に浸透していったと思います。新聞に関してはこの日は間に合わず、翌日の「土曜日週末版」での扱いになりましたが、ニューヨークタイムズが「オバマ大統領と安倍首相の握手」という写真だった一方、保守系と見られているウォール・ストリート・ジャーナルが、大統領と森氏の抱擁シーンの写真を大きくトップにカラーで取り上げたのが印象的でした。
4月のケリー国務長官献花に始まり、世論の反応を丹念に見ながら発表のタイミングを探り、歴史的な演説に至ったホワイトハウスと大手メディアの連携は、ここで成功したと言っていいでしょう。
もちろんそこはアメリカですから、反対論もあります。代表的なものを3点紹介すると、まず大統領候補のドナルド・トランプは、「大統領は日本にいる間に真珠湾での奇襲に言及しなかった。何千というアメリカ人が殺されたにも関わらず、だ」というツイートをしています。彼の「対象マーケット」の年齢や特性を考えると想定内と言えます。
またタカ派のラジオDJであるラッシュ・リンボーは、保守サイト「ブライトバイト」が掲載している番組の記録によると、「大戦を終わらせるというトルーマンの決意をまったく支持していない」とか「どんな宗教も信仰によって殺人を許すことはないだって? 冗談じゃない、我々はナチと日本軍から自由を守るために戦って自分たちを守ったんだ」という、いかにもリンボーらしい言い方で、オバマの批判をしていました。
ですが、リンボーがこうした発言をしたのは想定内ですし、冷静な語り口からは怒りや反発の激情と言うのは伝わってきませんでした。リンボーが冷静ということは、感情的な反発の拡散も限られているということを示しています。
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