コラム

ウーバーと提携したトヨタが持つ「危機感」

2016年05月26日(木)17時50分

Robert Galbraith-REUTERS

<ウーバーが最終的に目指すのは自動運転車で提供する「相乗り」サービス。トヨタにはイノベーションに乗り遅れまいという危機感が感じられる。自動運転車は日本ではまだ普及の見通しは立っていないが、消費者の不安感や抵抗感は実はイノベーションを生み出す源泉とも言える>

 自動車の配車サービスをネットで提供する米ウーバー社とトヨタの提携が発表されました。当面は、ウーバー社の車両需要に対して、トヨタが特別なリース契約で車両を提供する提携になる模様ですが、今後の中長期的な研究開発に関する提携も示唆されています。

 ウーバーに関しては、古典的なタクシーやハイヤーの業界を脅かしていることから、欧州では大きな論争になっていますし、アメリカでも特にニューヨークでは、タクシー業界を保護しようとする民主党のデブラシオ市政との間でトラブルを起こしています。

 ですが、このウーバーという会社はネットを使って「タクシー業界の革命」を起こすことが目的の企業ではありません。ネット配車サービスというのはあくまで情報収集の手段で、将来的には「自動運転車」を実用化して、自動運転車による「相乗りサービス」を行うことを目的としています。そのために、ペンシルベニア州ピッツバーグで、ロボティクスの技術者を集めて、様々な実験車を走らせて開発を行っています。

 ところで、この自動運転車については、グーグルやアップルなどのハイテク企業も、それぞれに多くのリソースを投入して開発を進めていますが、現在のところ、ドライバーを必要とする車、必要としない車などの、「自動運転のレベル」が話題となっています。テクノロジーから攻めればそのような議論になるわけです。

【参考記事】若者がクルマを買わなくなった原因は、ライフスタイルの変化より断然「お金」

 議論の根底にあるのは、例えばグーグルカーとかアップルカーといった自動運転車が将来発売されたら、自分は「買うだろうか?」という自問です。つまり自動車は、ユーザーが所有して必要な時は使うし、必要のない時はガレージで寝かせておくというパラダイムは変わらないのが前提です。もちろん、グーグルやアップルはそこに固執はしていません。ですが、とりあえず車とテクノロジーからの発想という順番でのアプローチになっています。

 しかしウーバーの発想法は、反対に「移動したい」という利用者のニーズが原点になっています。ですから、将来的に無人運転車への「相乗り」というビジネスが成立するような場合、エンドユーザーが自動車を所有することはなくなり、プロの運転手が自動車を所有することもなくなる、そんな可能性があるわけです。

 つまり、自動で走るクルマが効率的に乗客を「相乗り」させながら24時間稼働するような社会、そんな構想がベースになっているのです。場合によっては、バスや鉄道といった近距離の公的交通機関に代替することで、人口密度の低いエリアでは、バスや鉄道は消えてしまうかもしれません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

北朝鮮、31日発射は最新ICBM「火星19」 最終

ワールド

原油先物、引け後2ドル超上昇 イランがイスラエル攻

ビジネス

アップル、四半期業績が予想上回る 新型iPhone

ビジネス

インテル、第4四半期売上高見通し予想上回る 第3四
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:米大統領選と日本経済
特集:米大統領選と日本経済
2024年11月 5日/2024年11月12日号(10/29発売)

トランプ vs ハリスの結果次第で日本の金利・為替・景気はここまで変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本で「粉飾倒産」する企業が増えている理由...今後はさらなる「倒産増加」が予想される
  • 2
    「まるで睾丸」ケイト・ベッキンセールのコルセットドレスにネット震撼...「破裂しそう」と話題に
  • 3
    幻のドレス再び? 「青と黒」「白と金」論争に終止符を打つ「本当の色」とは
  • 4
    脱北者約200人がウクライナ義勇軍に参加を希望 全員…
  • 5
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 6
    北朝鮮軍とロシア軍「悪夢のコラボ」の本当の目的は…
  • 7
    天文学者が肉眼で見たオーロラは失望の連続、カメラ…
  • 8
    中国が仕掛ける「沖縄と台湾をめぐる認知戦」流布さ…
  • 9
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 10
    自爆型ドローン「スイッチブレード」がロシアの防空…
  • 1
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 2
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴出! 屈辱動画がウクライナで拡散中
  • 3
    キャンピングカーに住んで半年「月40万円の節約に」全長10メートルの生活の魅力を語る
  • 4
    幻のドレス再び? 「青と黒」「白と金」論争に終止符…
  • 5
    2027年で製造「禁止」に...蛍光灯がなくなったら一体…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語ではないものはどれ?…
  • 7
    世界がいよいよ「中国を見捨てる」?...デフレ習近平…
  • 8
    日本で「粉飾倒産」する企業が増えている理由...今後…
  • 9
    「決して真似しないで」...マッターホルン山頂「細す…
  • 10
    【衝撃映像】イスラエル軍のミサイルが着弾する瞬間…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 8
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 9
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 10
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story