コラム

テレビ報道の自由と中立性はどう確保したらいいのか?

2016年04月14日(木)15時30分

報道の自由と公共の電波を使うテレビメディアの中立性のかね合いが議論を呼んでいる Thomas Peter-REUTERS

 新聞や書籍に特段の「中立性」は求められません。そんなことを要求したら言論弾圧になってしまいます。ネットの場合はもっと自由で、物理的に遮断しない限り情報は限りなく拡散します。

 一方で電波媒体、とりわけテレビに関しては「中立性が要求され」ます。これは、日本の電波行政が「原則禁止である高出力電波の発信を免許、つまり『免じて許す』という国家の判断」に依拠しているからかもしれません。大昔の「逓信省」以来の統制システムというわけです。

 ですが、この「電波については一定の規制をする」というのは、必ずしも日本や、一部の独裁国ばかりではなく、世界共通の考え方でもあるようです。例えば、電波、特にテレビの持つ影響力は非常に大きいので、クーデターや革命を狙う軍事集団は、そのターゲットとして放送局を狙うわけですし、これに対して既存の秩序を守ろうとする側も、放送局に籠城して国際社会にSOSを訴えたりします。

 そうした電波媒体の重要性ということを考えて、電波、特にテレビの公共放送に関しては「あんまり偏っては駄目」だというのは、世界共通の考え方だとも言えるでしょう。規制のやり方は、お国柄を反映するにしても、何らかの規制というのは大なり小なりあると思います。

 では、なぜ現在の日本で「電波を止めるぞ」的なプレッシャーを含めた不安定な議論が続いているのでしょうか?

【参考記事】パナマ文書、巨大リークを専売化するメディア

 そんなことを考えていた時に、ちょうど、政治学者の山口二郎氏のツイートが飛び込んできました。次のような内容です。

「補欠選挙の最中に首相を出演させるテレビ局は、中立公平を捨てているのではないか。電波停止はこの局から検討すべき。ついでにTBSに圧力をかけている怪しげな市民団体はこの件、どう考えるのか。」

 この発言は色々なことを示唆しています。

 まず山口氏の立場からすると、ある局が番組に首相を呼んで、首相の発言を中心に構成した番組を作るのは不愉快なようです。つまり、山口氏が「怪しげな市民団体」と呼んでいるグループが、自分たちと異なる主張が基調となっている番組に強く反発しているのと、山口氏の心情は相似形だということです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story