コラム

テレビ報道の自由と中立性はどう確保したらいいのか?

2016年04月14日(木)15時30分

 別に山口氏を揶揄しているのでも、「市民団体」を揶揄しているのでもありません。自分が好き好んで見ているのでは「ない」番組であっても、自分の立場と著しく違う立場を基調として「公共の電波が使われている」ということには、不快感を持つ人があるということの一つの証拠になっているのは事実だと思います。

 では、仮にそうした心情をくみとって「政治的な問題の報道は淡々と事実を述べるだけ」にしたらどうかというと、これでは、現代の複雑な政治経済社会の問題について、有権者が判断をする上での情報としては不足してしまいます。

 どんな「事実」も、価値観というスポットライトを当てて光ったり影が出たりする中で立体的に浮かび上がるものが真実であり、それを真正面から2次元の陰影のない画像で示しても「何のことやら分からない」ということになるからです。

【参考記事】AP通信、ナチスとの黒歴史

 そこで、例えばアメリカのテレビ局の場合は、一つの手段を使っています。それは、政治を扱う際にはリベラル系の評論家と、保守系の評論家を必ず同時に出すか、同じ番組内で同じ量だけ出演させるという手法です。

 FOXニュースという局は、基本的に保守色が強いことで有名です。ですから、司会者も自他共に保守系だということで逃げも隠れもしない人が出ています。そうなると、全体としても一方的になるわけで、そこを「中和」させるために、リベラル系のコメンテーターをレギュラーで雇って、ビル・オライリーなどの保守系のMCと対決させてバランスを取るということをします。

 一時期のFOXはこれを悪用して「滑舌が悪くて主張も怒りを買うだけの典型的なリベラル」のキャラクターを引っ張ってきて悪玉に仕立てたりしていましたが、意外とそういう番組の作りは受けなかったようです。反対に、例えばクリントン時代に労働長官をやったロバート・ライシュなんていう人は、わざわざFOXに出てリベラル政策の啓蒙を丁寧にやっていましたし、オライリーとも互角に渡り合っていて、それはそれで好感を持たれていました。

 日本の場合でも、ニュースや報道系の情報番組で、この手法をとって、双方の立場のコメントが時には火花を散らし、時には是々非々でやっていれば、全体では「中立」だけれども、有権者には「価値判断の材料は提供できる」ことになるのではないかと思うのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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