コラム

トランプ勝利会見に寄り添うクリスティー知事の深謀とは

2016年03月03日(木)20時00分

 ではなぜクリスティーは、「プロ政治家の先陣をきって」トランプ支持にまわったのでしょうか?

 その前に、この「クリスティーという人物が、大統領候補を支持する」ことにどんな意味があるのか、前例を検証する必要があると思います。

 前回、2012年の大統領選の経緯が良い例です。クリスティーは共和党政治家として、かなり早いうちからミット・ロムニー候補の支持を打ち出していました。選挙戦の早期には、二人三脚の遊説をやってロムニー陣営に協力していたのです。

 しかし「妙な事件」が2つ起こりました。1つは、その年の8月末にフロリダ州タンパで開催された共和党大会で「基調演説」をまかされた時のことです。それまでの選挙戦への貢献から見て、この大役を振られたのは、そんなに不自然ではありませんでした。ですが、演説の内容のほとんどは「極貧の中から弁護士、そして政治家に成り上がってきた自分の自慢話」で、「ロムニーの応援」は少しだけ。その結果、共和党の中では「何だアイツは?」という批判が渦巻いたのです。

 2つ目はもっと重大な「事件」です。この2012年の大統領選投票日の直前に、大型ハリケーン「サンディ」の直撃で地元のニュージャージーが大きな被害を被った際、支援のためにオバマ大統領が駆けつけたのでした。知事は、そのオバマを賞賛して2人でガッチリと握手をして「超党派で復興に努力する」というイメージを演出したのです。この行動は地元では大絶賛されましたが、ロムニー陣営では「あのクリスティーの裏切りが大きなダメージになった」という「恨み節」が続くことになりました。

 要するに、この人に取って「大統領候補として誰かを支持する」のは、そういうことなのです。あくまで「自分の戦略」で動いているだけなのです。

 それでは今回、クリスティーは「何を考えている」のでしょうか?

【参考記事】トランプの巧妙な選挙戦略、炎上ツイートと群がるメディア

 一説には「トランプの副大統領候補狙い」と言われています。ですが、一緒に戦って負ければ知事としての権威は失墜しますし、4年後の大統領選への可能性も少なくなってしまいます。ですから、これはかなり危険を伴います。

 副大統領として勝った後、トランプにスキャンダル等が出て罷免された場合には、自動的に自分が大統領に昇格できるという可能性に賭けているという見方もできますが、仮に大統領罷免という事態になれば、副大統領としての政治的ダメージも免れません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

スペインに緊急事態宣言、大規模停電で 原因特定でき

ワールド

ロシア、5月8から3日間の停戦を宣言 ウクライナ懐

ワールド

パキスタン国防相「インドによる侵攻差し迫る」、 カ

ワールド

BRICS外相会合、トランプ関税の対応協議 共同声
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 7
    体を治癒させる「カーニボア(肉食)ダイエット」と…
  • 8
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    【クイズ】米俳優が激白した、バットマンを演じる上…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 8
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story