コラム

現実味を帯びてきた、大統領選「ヒラリー対トランプ」の最悪シナリオ

2015年10月15日(木)16時00分

 前回2008年の予備選では、ヒラリー対オバマの激しい戦いがありましたが、その際には、例えば医療保険制度改革に関して、政府の負担がより大きいヒラリー案がいいのか、より現実的なオバマ案がいいのかといった、具体的で意味のある論争があったわけです。

 ですが、今回の討論は「あくまでリベラル、つまり民主党支持者の中でのみ通用する、基本的には左派ポピュリズムとして耳触りの良い」スローガンが飛び交うだけで、内容的には空疎であったと思います。

 TPPには国内雇用の点から反対というのが基調でしたし、サンダースを中心に「政府の盗聴を告発したスノーデンを評価」するような流れもあり、その是非はともかく、若年層への受けを狙いつつ、経済や軍事外交に関する「頭の痛い直近の課題」からは逃避するような姿勢が目立ちました。

 討論を「勝ち負け」で見るのであれば、ヒラリーの弁舌は冴えまくって、明らかに他の候補を圧倒していたと思います。

 一夜明けた反応としては、大手メディアは一斉に「ヒラリー完勝」という評価。その一方で、今回のテレビ討論を共催した Facebook 利用者のアンケートでは、75%がサンダースが「勝った」と回答するなど、世代間の断裂が浮き彫りになっています。そのいずれも、私には想定内でした。

 一方で、同時期に行われた共和党の各候補に関する世論調査では、サウスカロライナ州とネバダ州で、依然としてトランプ候補が支持率36%~38%とリードを広げており、カーソン医師が2位でその約半分、「本命視」されていたジェブ・ブッシュ、マルコ・ルビオの両候補は10%にも届かないという低迷が続いています。

 こうなると、一つの悪いシナリオが現実味を帯びてくるのを感じます。

 それは、このまま共和党は時間切れでトランプが統一候補として逃げ切る、一方の民主党ではヒラリーが完全復活して無風で候補に選出、本選では中間層がトランプを忌避してヒラリーが圧勝......そんなシナリオです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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