コラム

東芝の不正会計、ガバナンスの何が問題なのか?

2015年07月14日(火)17時00分

 今回の東芝の問題で疑問なのは、こうした4つの段階の「企業統治」のチェックが機能しなかったということです。とりわけ、4番目の社外監査を行った会計事務所、そして2番目の社外取締役の責任は重いと思います。

 そもそもこの4段階の「企業統治」では何も分からずに問題がスルーしてしまい、事態が深刻化したのを受けて、元検事などの「第三者委員会」を作って調査をするというのが妙な話です。これでは、社外取締役も、社外監査も「第三者ではなかった」ということになるからです。

 歴代の3人の社長の責任ばかりが取り沙汰されていますが、こんなことでは、日本経済全体の、少なくとも東京証券取引所の信用はガタ落ちです。また東芝はロンドンの証券取引所に上場していますが、悪質性が問題視された場合は、株主による巨額な賠償請求なども発生する可能性があると思います。

 2009年に発覚したオリンパスの不正経理の場合は、高度な隠蔽工作がされていたわけで、毎年の決算にあたって、例えば外部監査でも不正が見抜けなかったというのは全くわからない話ではありません。ですが、今回の東芝の場合は、報道によれば現場も巻き込んで「広く薄く利益の水増し」が長期間にわたって行われ、その合計金額が500億円に達していたというのですから、腕利きの公認会計士であれば見抜けないはずはありません。

 特に、工事の進捗具合などで「売り上げの一部を計上する」というような操作における売り上げの過大計上などは工事の進捗状況の写真や、過去の売上計上の基準との比較などを行えば、見抜けないはずはありません。内部監査にしても、外部監査にしても、そのレベルの帳簿や証拠書類の原票のチェックなどはルーチンに入っているはずです。

 そのような中で、今回の問題は監査人の告発ではなく、内部告発によって初めて明るみに出たというのは、まさに日本の企業統治が機能不全に陥っていることを示していると思います。

 現在、安倍政権は「成長戦略」の1つとして「コーポレートガバナンス改革」をスローガンに掲げています。その中で「社外取締役の選任」は重要な課題に位置づけられています。間違ってはいけませんが「より頑張って利益を最大にする」ためだとか、「立派な取締役会の構成名簿」を作るための社外取締役ではないということです。

 この「コーポレートガバナンス改革」は、これによって国際金融システムの中の投資家から信任を受けて、投資資金を集め、その結果として産業を伸ばすためにやっているのです。そのためには、万が一経営陣が暴走した際には、それをチェックするだけの「第三者性」を確保しなければならない。社外取締役にしても、経営の外部監査人にしても、そこが求められるのです。

 今回の東芝の問題を契機に、そこの本質的な改革を進めるべきと思います。そのためにも、「企業の全体の利益をエイヤッと水増し」したのではなく、「個々の件についての不正が積み上がっただけ」だから、これは「不適切会計」であって「粉飾決算ではない」といった「オトモダチ感覚の甘い対応」はスパッと止めるべきでしょう。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story