コラム

東芝の不正会計、ガバナンスの何が問題なのか?

2015年07月14日(火)17時00分

 会社の経営者の評価は業績で決まります。特に利益を出さなくてはならない、そのプレッシャーの中で仕事をするのが、企業経営者の宿命だと言えるでしょう。

 ですが、利益を最大化することが目標であれば、売れてもいないものを売れたことにして売り上げを水増ししたり、使ってしまった費用を別の名目にしたり、あるいは使わなかったことにしたり、要するに「利益を大きく見せる」という虚偽の経営数字を「作ろう」とする動機がそこにあるということです。

 これに加えて企業の会計というのは、大変に複雑ですから、色々な間違いを犯すこともあります。こうした故意の間違い、あるいは過失の間違いを防止するために、上場企業の中にはコーポレートガバナンス(企業統治)という制度が存在しています。具体的には次の4つがあります。

 1つ目は「株主総会」です。企業の役員の選任や、決算の承認、残った利益をどう分配するかといった「利益処分案」など毎年のことをはじめ、企業の買収や合併などの重要な案件は、株主全員の投票による株主総会で決定されます。

 2つ目は、「社外取締役」という制度です。つまり、日々の経営より上位の「長期経営計画」や重要事項の決定などについては、より第三者的な社外取締役を交えた「取締役会」で決定することにして、企業のトップの専横を抑えるのです。

 3つ目は、社内監査という制度です。会社の中というのは、悪く言えば上から下まで各組織が「目標利益を達成」するために動いているのですが、反対に、そのために数字を改ざんするという動機、あるいは公私混同をするなどの不正を行う温床はあるわけです。社内監査人というのは、他の組織からは独立して会社全体に対して目を光らせて「不正はないか?」をチェックする専門の組織です。

 4つ目は、社外監査という制度です。社内に監査役や監査室が設置されていても、会社の中の人間が行う監査ではどうしても限界があります。そこで上場企業に関しては、社外の監査が義務付けられています。会計事務所が選任されて、選任された会計事務所が監査を行う中で、例えば決算の報告は監査法人が「無限定適正(すべての点で適正)」だというお墨付きを与えて初めて株主総会の決算報告ができることになっています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア政府系ファンド責任者、今週訪米へ 米特使と会

ビジネス

欧州株ETFへの資金流入、過去最高 不透明感強まる

ワールド

カナダ製造業PMI、3月は1年3カ月ぶり低水準 貿

ワールド

米、LNG輸出巡る規則撤廃 前政権の「認可後7年以
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story