コラム

郵便事業は今後も持続可能なのか?

2015年01月27日(火)13時03分

 ですが、コストはなかなか削減できないのです。というのは、郵便事業の背景には万国郵便連合という国連の専門機関があり、この機関に日本は加盟して万国郵便連合憲章ならびに万国郵便条約にも加盟しているという事情があります。

 そして、この万国郵便連合が要求しているのが「ユニバーサル・サービス」という考え方です。つまり「地球上のほぼすべての場所から固定料金に近い形で郵便物が送れること。国際郵便、国内郵便(内国郵便)がともに同様の扱いがなされること」といった原則、そしてその国内版である「全国一律のサービス」と「全国津々浦々における郵便ポストの設置」という問題があるわけです。

 これは大変なコストになります。こうした「ユニバーサル・サービス」のためのコストを負担しているのが日本郵政だけであるのに、民間の他社がこれに参入するのは困る、これが規制緩和の進まない原因だと思います。

 確かに国際条約の上ではそうなっており、このことが郵便の大原則であるわけですが、では、このまま日本郵便の「信書の独占」というのは永遠に継続が可能なのでしょうか?

 継続はそう簡単ではありません。まず、電子メールや添付ファイル、あるいは電子メディアの宅配やバイク便などは今後も拡大していくと思われます。クラシックな郵便のシェアはどんどん低下することは目に見えています。

 日本郵政は上場を準備中です。仮に上場して、その際に首尾よく世界中から出資を募ることができたとすると、今度は「物言う株主」から「採算性の悪い個人相手の郵便事業を継続することは株主の利益に反する」といった訴訟を受ける可能性もあるでしょう。それ以前の問題として、収益性が著しく損なわれている「ユニバーサル・サービス」というものは、上場企業では継続不可能になると思います。

 そう考えると、この「ヤマト運輸」対「総務省」という対立の構図は、それ自体が不毛であるように思えてなりません。では、どうしたら良いのでしょう?

 アメリカでも構図は同じです。「ユニバーサル・サービス」という重荷を背負った郵政公社(USPS)は、民間から経営者を招聘してサービス向上に努めるなどの努力をしているのですが、電子メールの普及による郵便利用の減少が経営を圧迫しており、ここ数年で全米の多くの郵便局が統廃合になっています。現在は、土曜日の集配サービスを止めるという議論が出たり引っ込んだりしています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不

ワールド

アングル:またトランプ氏を過小評価、米世論調査の解
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story