コラム

2016年大統領選、軸はやはりヒラリーか?

2014年07月01日(火)10時19分

 どうしてチェルシーの出産を待たねばならないのかというと、単に個人的な家族の問題としての初孫誕生という問題だけではありません。チェルシーという人は、今ではヒラリーの事実上の選挙参謀であり、クリントン家の政治的な司令塔という存在なのです。彼女が仕切らないと、巨大な集票マシーンは動かないし、また彼女の存在があるからSNSやメディアを駆使した21世紀型の選挙戦が戦えるという面があるのです。

 ですから、11月に中間選挙が終わり、そこで政界のムードは「ポスト・オバマ」に移行する、そして否が応でも「ヒラリー待望論」が盛り上がる、その時点で産休明けのチェルシーが率いる「マシーン」が稼働してゆく、そうした日程になるのだと思います。

 そうした「クリントン家の政治日程」から逆算すると、今は巨大な空白期間になってしまうわけです。この時期を埋めるためのものとして、この「回顧録出版」と「全国サイン会ツアー」があるというわけです。

 本の中身は、事実上の出馬宣言と言っていいでしょう。勿論、彼女は本書で明言はしていません。ですが、本の全体から「ヤル気満々」の意欲が感じられます。何よりも本の冒頭では、08年の初夏、予備選の大勢が決まる中で、ヒラリーが遂に「オバマへの敗北」を受け入れていく、その何ともいえないシーンが「物語のスタート」になっているのです。

 敗北を受け入れられない中で、ダイアン・ファインスタイン上院議員のオフィスで、オバマと「一対一」での会談に臨んだヒラリー、そして二人は何も言わずにシャルドネのグラスを傾ける、なんとも言えないシーンです。ですが、そんなシーンから「回顧録」を始めるということは、次は「自分がホワイトハウスの主になる」というストーリーがやってこなければ、「ヒラリーの物語」は完結しないという宣言に他なりません。

 この回顧録ですが、内容としてはアメリカの外交、特にヒラリーの主導した対中国外交の書として真剣に読まれるべきだと思います。ですが、その行間にはどのページにも、自分が今度こそ大統領になるのだという思いが詰まっているとも言えるのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ルペン氏に有罪判決、被選挙権停止で次期大統領選出馬

ビジネス

中国人民銀、アウトライトリバースレポで3月に800

ビジネス

独2月小売売上は予想超えも輸入価格が大幅上昇、消費

ビジネス

日産とルノー、株式の持ち合い義務10%に引き下げ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 5
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story