コラム

「ヤジ事件」を機に、社会的セクハラ体質を徹底検証しては?

2014年06月24日(火)10時37分

 東京都議会の議場で発生した女性議員への「ヤジ事件」ですが、解決のプロセスはともかく、この種の発言は完全に「アウト」であることが広範に認知されたというのは、一つの前進なのだと思います。

 では、これで「事件」に関しては犯人探しと謝罪といったみそぎをすれば解決ということでいいのでしょうか? そうではないと思います。この機会に、社会に残るセクハラ体質について、様々な議論が必要だと思います。

 3つ指摘したいと思います。

 1つは人身売買の問題です。例えば、この月曜日にも、東京都東大和市で「12歳の女子中学生を拉致した男が、「一生家に帰らせない。売り飛ばしたら2000万円になる」などと脅して監禁した容疑で逮捕されるという事件がありました。この種の「女性の人身売買」ということが、まだまだ「場合によってはあり得る話」として社会にあふれている状況があります。

 4月期の連続ドラマの中でも、例えば『極悪がんぼ』というドラマでは、借金を帳消しにするために沖合にある「売春島」で働かされそうになるというエピソードがありました。ドラマでは、女主人公がそこから脱出するというストーリーになっていてモラルの崩壊は回避されていましたが、それでも「そのような人身売買の描写」が「ありそうな話」として横行すること自体が、そしておそらく実際には社会の中でまだ続いているということは、おそろしいことだと思います。

 このように、女性を(場合によっては児童、あるいは男性も)強制的に性的な職業に就かせる行為は、トラフィッキングと呼ばれて、国連は現在、地球規模でこうした行為を撲滅するように取り組んでいます。この問題に関しては、日本の社会は意識の面でも、実態としてもまだまだ問題を抱えているように思います。この問題も社会全体にあるセクハラ体質と切り離すことはできないと思います。

 2番目として、女性芸能人に対する視線の問題があります。ミュージシャンが麻薬事犯で逮捕されると、その楽曲までが発売中止や回収になるという現象がありますが、一方で女性の芸能人が同様の犯罪を犯した場合には、同じように芸能活動を制限されるわけです。ところが、その女性が法的処分を経て社会復帰した時に待っているのは何かというと、ヌードシーンのある映画に出ろとか、ヌード写真集を出せという圧力が加わるわけです。

 こうしたケースに加えて、例えば離婚した女性の芸能人に対しても、同様の圧力が加わるという問題があります。勿論、映画の中には表現上どうしてもヌードシーンの必要な作品はあり、自分なりの考え方で自分の身体を使って表現をするというのは、役者としてのプロフェッショナリズムとしてあります。また、写真集にしても女性が自由意志で被写体になるということはあるわけです。

 ですが、犯罪を犯して「前科」がついたから、あるいは「離婚した」からという人生の局面において、まるで人間の格が下がったかのような扱いをして、社会的な性的好奇心がその女性に向けられるというのは、やはりカルチャーとして非常に貧困であると思います。強い言葉で言えば、お金で女性の尊厳を蹂躙しているような印象があります。これも社会的セクハラの一種ではないでしょうか。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

貿易分断で世界成長抑制とインフレ高進の恐れ=シュナ

ビジネス

テスラの中国生産車、3月販売は前年比11.5%減 

ビジネス

訂正(発表者側の申し出)-ユニクロ、3月国内既存店

ワールド

ロシア、石油輸出施設の操業制限 ウクライナの攻撃で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story