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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
遠ざかる「パールハーバー」、ヒロシマはどうなる?
70周年は静かに過ぎていきました。20世紀までは常にアメリカにとって12月7日のヘッドラインを独占していた「真珠湾記念日」ですが、21世紀に入ると共に扱いは小さくなっていきました。今年は70年という大きな節目だけあって、記念式典などは厳かに行われていましたが、社会的な関心は極めて平静でした。
それは自然にそうなったということもありますし、またアメリカの政府としても特に大きく扱う理由がなかったのだということだと思います。日米関係は極めて密接ですし、その一方で実際に真珠湾攻撃を経験した「生き証人」も減り、全ては時代の彼方に過ぎ去って行こうとしている、そういうことでしょう。
実は、私はこの11月にハワイで行われたAPECサミットが、真珠湾70周年と結びつけられてしまうことを心配していました。日本の天皇も首相も「戦艦アリゾナ記念館」にはまだ献花していない中、野田首相が胡錦涛やメドベージェフと一緒に献花をさせられるということになれば、日米の一対一での「和解の儀式」というのは不可能になる、そんなことを思っていたのです。それどころか、野田首相にとっては唯一の「枢軸国代表」として集団献花に参加するというのは屈辱と取られる危険性もありました。
ですが、この点に関しては一切杞憂に終わったことになります。私の推測ですが、日米の外交当局の間に、この点についてはキチンとしたコミュニケーションがあったのではと思います。当局としては、一切認めないと思いますが、恐らくは「アメリカン・スクール(米国派)」の人々が良い仕事をしたのでは、そんな風に勝手に見ているところです。
この「70周年」が野田首相の屈辱の場になることは全くなかったわけですが、ただ、そうなると日米の「一対一の本当の和解の儀式」というのは、どうなるのでしょうか? 私はジャーナリストの大先輩である松尾文夫氏(元共同通信常務)が主張されている「日米相互献花」つまり、日本側が真珠湾で献花し、外交の相互性に基づいて合衆国大統領が広島・長崎に献花をするという形で「和解の儀式」がされるのがよいのではと思っていました。
ですが、真珠湾献花ということが、事件が時代の彼方へ流れていくことで重みを失う中、ヒロシマ・ナガサキでの献花とのバランスと言いますか、相互性という意味合いを出すのが難しくなっているように思います。というのは、真珠湾と比べるとヒロシマ・ナガサキの「意味」は全く風化していないからです。
それは真珠湾より「3年半新しいので記憶が残っている」というようなものではありません。戦闘行為の中での主として戦闘員同士の戦いであった真珠湾のエピソードと、10万以上の非戦闘員の人命が奪われ、多くの人間を後遺症で苦しめた対都市核攻撃とは歴史的なインパクトの重みが違うからです。
では、どうしたらいいのでしょう? 一つの考え方は、あくまで相互性ということに重きを置く、つまり日本のできれば天皇と首相がアリゾナ献花を行い、合衆国大統領が広島と長崎の双方で献花を行う、その二つの儀式が対になることで、歴史の清算を行うということの意味は今でもあると思います。
もう一つの考え方は、核軍縮、核廃絶という人類的な大きなストーリーの中で、合衆国大統領の広島・長崎献花というケジメを位置づけるという方法です。ですが、この場合は、どうしても合衆国イコール唯一の核攻撃国という「汚名」が一方的にイメージされること、イランや北朝鮮など核拡散の問題を「放置」しつつ核廃絶のメッセージを出すことはアメリカの保守が強硬に反対するであろうこと、中国に向けた核廃絶のメッセージ性は果たして届くのかという問題、など難問が山積することになるでしょう。
真珠湾が歴史の彼方へと、自然に清算が進む中、広島・長崎を歴史的にどう位置づけるのか、どんな意味性を与えてケジメとするのか、オバマの広島・長崎献花という問題は依然として難問として残るように思います。それ以前の問題として、何にしても、オバマが圧倒的な票で再選されることが前提となるのは言うまでもありません。
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