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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
寒冷地の忍耐、異常気象続くアメリカ東北部
21世紀に入ってからアメリカでは、サマータイムの期間が延長されており11月に入ったこの週末、やっと冬時間に移行しました。この時期の日照時間に時計を1時間ずらすというのは影響が大きく、朝がいつまでも暗いのは多少改善されたものの、今度は日没時間が時計の上ではグッと早くなり、否が応でも冬の到来を感じさせます。
今年の場合ですと、サマータイム期間中の先々週に米国東北部では雪が降るという異常気象だったわけで、余計に冬の訪れを痛感するのですが、この季節はずれの雪は思わぬ被害をもたらしています。とにかく広範囲にわたって停電が続いたのです。
私の住むニュージャージーでも被害があったのですが、何といってもひどかったのがコネチカット州でした。10月29日の雪の後、70万世帯が停電、これは州内の53%に上るのだそうです。その後の復旧もなかなか進まず、雪から一週間経った先週末の時点でも万単位の停電世帯が残っているそうです。
オバマ大統領は早々に非常事態宣言を出しましたし、州政府は州内に電力を供給している「コネチカット電灯電力社」に対して、復旧作業に著しい遅れが出ているとして、厳格な査察を行うとしています。ですが、同社としては、予想不可能な被害のために復旧チームとしてはこれ以上のスピードアップは不可能と主張しているのです。
どうして広範囲な停電が起きているのかというと、季節的に落葉が終わっておらず、樹木の上に積雪するという異常な自然現象になったことが大きいようです。普通は降雪というのは落葉が終わって樹木が裸になってからなので、樹木の上に相当の積雪量がたまるということのないように、自然の摂理が出来ているのですが、今回はそうした「仕様」外の条件になったというわけです。積った雪はそのまま凍り、重たい氷が相当の大木でも倒してしまう、その樹木が電柱や電線をなぎ倒すというような事故が大量に発生したわけです。
ちなみに、コネチカット州というと、90年代までは「アイス・ストーム」といって、過冷却の水滴が地面に当たった瞬間に氷結する「氷雨」のために、電線の周囲に透明な氷が発生して電線が切れるというような事故が多く発生していました。アン・リー(李安)監督の初期作品『アイス・ストーム』では、切れた電線に接触することで悲劇が起き、それが家族崩壊の荒涼とした物語の転回点になっていましたが、あの映画も正にコネチカットが舞台でした。今回は厳冬期の氷雨ではなく、初冬の早すぎた雪のための被害というわけです。
コネチカットの人々は、ある意味では冬の停電というのには経験があるわけで、怒りながらも耐えているのです。電気の通じている友人知人の家に身を寄せるとか、薪をたくさん買ってきて暖房の代わりにするとか、家の中でも厚手のダウンジャケットを着てしのいでいるとか、相当な忍耐を続けている家庭もあるそうです。
忍耐といえば、私の住むニュージャージーでは停電の規模はコネチカットほどではないものの、積雪や凍結のために倒れた木の処分には多くの市町村が困っているようです。基本的には、ニュージャージーの場合、倒木や伐採した潅木の処分は、道路脇に放置しておくと市町村が回収して、それを砕いて腐葉土の原料としてリサイクルしてくれるのです。ですが、今回の倒木は余りに量が多いので、例えば州北部のマウンテンサイド町では、町の財政が危機的な状況の中で、倒木の回収ができないと「ギブアップ」して話題になっています。
町民に対して「申し訳ないが倒木を道路脇に出すのは止めて、自分の敷地内に戻して、そのあとは各自で処分するように」という指示を出したところ、当初は多くの町民からクレームが出たそうですが、やがて何とか納得してもらえた、州内のローカル報道ではそんな話を聞きました。
いずれにしても、寒冷地特有の厳しい自然に対して、コネチカット州の電力会社にしても、マウンテンサイド町の公共サービスにしても、人的パワーの限界にブチ当たる中で、住民はじっと耐えているという感じです。長引く不況、繰り返される異常気象の結果、人々は良くも悪くも忍耐強くなっているようです。
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